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親子茶屋

ええ~、毎度毎度のお運び、いつもいつも誠にありがとうございます。皆様方の拍手が止むまでは、これこうして、深く深く頭を下げておりますm(__)mm(__)m。ありがとうございます、ありがとうございます。お客様、拍手は大変嬉しいのですが、そろそろ止めて頂けませんでしょうか、あたくし、何だか首の筋が痛くなって参りました…。しかし、随分と春めいて来ましたな。春宵一刻値千金 花有清香月有陰、春の宵は一刻が千金に値する程素晴らしく、花は香しく月も輝いている、昔の中国の文人は風情がありますなあ。朧月夜と申しますと、源氏物語に登場します奔放なお姫様、ジャズならばフライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン、はたまた月の兎の逸話もございますが、昨日でしたか、火星において、滅多に見られない景色があったそうですな。何とまあ、塵の雲と巨大な光るオーロラが観測されたそうでございます。天女も織姫も彦星も、さぞや驚いた事でしょう。天の海に 雲の波立ち 月の船 星の林に 漕ぎ隠る見ゆ、これは柿本人麻呂ですが、火星の情景も息を呑む景色だったでしょうなァ。

春は出会いと別れの季節、そして一期一会、柳は緑、花は紅、良い女は柳腰、なんつって、この時分になりますと、目にも鮮やかなのが、芸妓のお披露目でございます。この芸妓になりますにも修行期間が必要でして、三味線の長唄に清元常盤津、花柳に藤間に西川と日本舞踊、お琴にお花に茶の湯、そしてお座敷の作法、夫々試験があるんですな。さて、それに受かればいよいよお披露目でございまして、車屋さんに着せる名入りの袢纏、同じく己の名を記した手拭いを拵えます。そして箱屋さん、これは着付け等全般をこなす雑用係を雇いまして、そして先輩のお姐さんを連れ、料亭を1軒1軒廻りましてご挨拶を済ませ、これで晴れて芸妓として認められる訳なんですな。私事で恐縮ですが、あたくしのひい爺さん、この芸妓が大好きでございまして、夕刻の時分になりますてえと、やおら張り切りまして、一張羅に着替えまして香水を振り、色町の辺りを暫し散歩するんですな。芸者衆が其々、料亭にお呼ばれしてご出勤なんですが、それを眺めて声を掛けて冷やかすという、とんだ道楽者でございました。

こういう遊び人ってのは、随分前からおりました様でございまして…。時は元禄、今では恐れ多くも天皇陛下がいらっしゃるお城には、将軍様が頑張っていた時代でございます。華のお江戸は八百八町、風神は 雷門に 居候、てな古川柳がございますが、浅草の地に、古ぼけた屋敷がございました。そこに住むのは、親子で営む、余り流行らない町医者でありまして、ちょうど今時分と同じ、夜桜が見頃な春の事であります。せがれの達が、浅草からは目と鼻の先の吉原、ここは謂わずと知れた花魁が沢山居る、多くの殿方が大層好む処でございまして、其処に何日も何日も居続けなんですな。「あれ、若先生はまた居ないよう。」「どうせまた吉原だろうよ、全く花魁に手玉に取られちまって、仕方が無いよ。オイラの風邪も、何時まで経っても治らねえ…。」と長屋の患者さんも困っておりました。親父の稔もカンカンでありまして、達が堂々と帰って来ましたのは、何と1週間後だったんですな。「おい、お前さん、また吉原で鼻の下を伸ばしてたんだろう、どうしようもねえ奴だよ。」「親父さん、勘違いしちゃあいけねえよ。オイラ、花見に行ってただけだぜ。」「何処に1週間続く花見があるんだい。芝も神田も小石川も、そんなに長くちゃ、桜が散ってしまうぜ。女房のお信があの世に行ったばかりじゃねえか。淋しいのは分かるが、もう少し神妙にしな。」、懇々と諭しました処、達もすっかり反省した様子でございました。

「あたしは今夜は辺りの長屋連中と寄合があるんだよ。お前はしっかり留守番して、何処にも出かけるんじゃねえぜ。」、そう稔が言い残しますと、達も殊勝に頷きました。やれ安心、長屋の世話人連中と一杯聞し召した稔、ほろ酔い気分で誠に良い心持でございます。散々飲んで、漸く帰途に就いた稔ですが、しだれ柳の下をそぞろ歩き、何だか艶めかしい春の宵でありまして、「そう言やあ、達の代診ばかりで今年は未だ桜も拝んでいねえや。ここから吉原は目と鼻の先、ちょいと大門をくぐって、夜桜だけ見て帰ろうか。」、その吉原は大変な大賑わい、綺麗処の花魁が沢山おりまして、まるで辺り一面に花が咲き誇るかの様でございます。「そう言やあ、最近は酒もあんまり飲んでねえな。帰る前に1杯だけ、呑み直しと行くか。」、ついついお茶屋に上がりました。稔も、一見すると謹厳実直なのですが、流石は達の親父だけありまして、色の道は決して嫌いじゃないんですな。ふと気付きますと、芸者衆に禿に太鼓持ちまで座敷に勢揃い、「アラ、稔先生、お見限りねえ、本当につれないお方、憎らしいわ。あたしの気持ちは知ってる癖に、何処で浮気してたの。」「誰にでもそう言ってるんだろう。困った奴だ…。」、満面の笑みで上機嫌、何杯も杯を受ける稔でございました…。

一方、家に残された達の方はと言いますと、当初は殊勝にも医書を紐解き、薬草を干したりしていたんですが、「そうだ、親父は遅くなるって言ってたなあ。親父が帰るまでに、ちょいと吉原を覗いておこう。なァに、分かりゃあしねえよ。」、そう思い立ちますと、あっと言う間に豪奢な着物に着替えまして、お洒落にも匂い袋まで用意するという有り様、宙を飛ぶ様に吉原の門をくぐる達でございました。馴染みの茶屋に入りまして、女将を呼びまして、「おい、いつもの芸者衆を呼んでおくれよ。」と申しますと、「アレ、達先生、ご免なさい、許されて…。生憎今夜は、年が60過ぎですかねえ、何処ぞのご隠居さんが貸切なんですよ。芸者衆も幇間も、皆そっちに掛かりっきりなんですよう。相済みません…。」「ヘエエ、そんな年でも吉原で遊ぶんだねえ、流石は江戸っ子、気風が良いや。それにしても粋な爺さんだ、ウチの親父に爪の垢でも煎じて飲ましたいねえ。オッ、そうだ、良い事を思い付いたぜ。もしご隠居が良ければだぜ、一緒に遊ばして貰えねえか。その元気にあやかりたいぜ。女将、ちょいと聞いて来てくんな。」「よござんすよ。」

お座敷に話を通しますてえと、ご隠居もすっかり乗り気でございます。「へえ、若いのに、こんな爺と一緒に遊びたい、近頃とんと見ない、気持ちの良い若い衆だねえ、いいぜ、通してくんな。」、三味線が鳴り太鼓の音が明るく響き、達が座敷に通されます。チャラランチャラチャラ、スカラカチャン、赤ら顔ですっかり上機嫌、ふんどし1つでご陽気に踊るご隠居でして、それを見た達、「お、お父っつあん!!」。ハッと我に返った稔、ふんどし姿のまま、「せがれや。飲み過ぎはいかんぞ…。」

昨日お亡くなりになられました人間国宝、三代目桂米朝師匠の十八番、「親子茶屋」の一席でございました。若輩者の拙い語り口ではございましたが、謹んで師匠のご冥福をお祈り致します。
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