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一寸の虫にも五分の魂 

ええ~、毎度毎度のお運び、誠にありがとうございます。いえね、あたくしが不在の間も、この高座にちょいちょいお越しになられている方も多い様で恐縮至極、感謝感激雨あられで相済みませんでございまして、世の中に 人の来る事嬉しけれ とは言うものの お前ではなし、あっ、これは冗談ですよ冗談、噺家の言う事を真に受けちゃいけねえ。本当にねえ、こうして高い処からお話させて貰って、お足まで頂いて、お客様には頭が上がりません。これこうして頭を深く深く下げまして、額に板の間の跡が付いちゃいましたが、改めて、毎度ありがとうございますm(__)m。これ以上の拍手はもう結構ですよ~。あんまり拍手をされちゃいますと、思わず手の平を優雅に振りたくなっちまいまして、それじゃあ、丸の内のちょいと先にある、大きなお城に住んでらっしゃる、やんごとなきお方になってしまいます。そうそう、そのお城を見て、「大きい公園だねえ。」なんて言ってた呑気なお旦が居ましたが、あたくし肝を冷やしましたよ。

しかしまだまだ蒸しますな。いえね、朝の日課の犬の散歩で、トボトボと歩いておりましたら、生憎の曇天で湿気が酷い所為か、すっかり汗みどろになりまして閉口したんですが、それでも、立秋を過ぎ処暑を超え白露も間近ですから、もう秋なんですなあ。ふとした拍子に、涼しげな風も吹いたりして、神社の境内や、路傍や草むらから聞こえる虫の音も、姦しい蝉が大人しくなりまして、蜻蛉が舞い、コオロギに鈴虫に松虫が鳴く様になりました。あたくしもそろそろ、草履や浴衣を仕舞わなくちゃいけませんな。

ええ~、それにしても日本語とは、世界一情緒に富んだ言葉でありまして、嫋やかで優雅で繊細で、毛唐の連中には分からないでしょうな。ごきげんよう、ごめんあそばせ、ずいぶんねえ、なんて所謂山の手言葉ですが、相手を慮る、良い物言いじゃありませんか。あたくしの仲間内になりますてえと、ぐっとお品が下がりますが、いえね、この間、楽屋で出番を待ってましたら、後輩の未だ二つ目の奴なんですがね、何だかしかめっ面で随分と悩んでおりました。「兄さん、ちょっと聞いてくれますか。」「何だい何だい、塞ぎの虫に取り憑かれて、景気が悪そうだねえ。虫の居所でも悪いのかい。苦虫を噛み潰した様な面だぜ。」「ほら、あたしの仲良しの娘が居るじゃないですか。どうも様子がおかしいと思ってたら、虫も殺さない様な可愛い顔して、悪い虫が付いたみたいなんですよ。」「そりゃあ虫の知らせって奴だよ。こないだ、その娘が男と歩いているのを見たぜ。コーちゃんコーちゃんって、おかめの面ァして、優男の腕にしがみついてやがった。」「幾ら兄さんでも、おかめは無いでしょう。あ~あ、蝶よ花よと持て囃して、贈り物までしたのに、これじゃあ泣き面に蜂だよ。」「蚊の鳴く様な声で愚痴っちゃいけねえな。おいおい、お前さんは泣き虫だなあ。それにしても、蓼食う虫も好き好きとはよく言ったもんだァね。腹の虫がおさまらねえだろうが、女なんて幾らでもいるもんさ。」なんて元気付けたんですがね、世間様には色々と変わった虫が居る様でございまして…。

時は元禄、天下太平の世、華のお江戸の八百八町に、達、という医師がおりまして、品川の芝の浜の近くで町医者として生計を立てておりました。達本人は腕は良いのですが、生来の女好きが祟ったのか、「あれ、あそこに行くと、手を握られて口説かれちまうよう。」なんて後家衆から噂を立てられまして、ちっとも患者が来ないんですな。仕方がありませんから、日がな一日、薬草をすり潰したりしていたのですが、ふと畳に眼をやると、妙な虫を見つけました。医者にも非ずと申しますか、思わず潰そうとした達に、何と虫が喋りだしたんですな。「先生先生、早まっちゃあいけません。僕、『疝気の虫』と申します。人のお腹の中で暴れるのが仕事です!」「ええ、何だか品が良い様だし、喋るんなら潰しにくいや。困った虫だねえ。」

疝気、と申しますのは、男性がかかる下の病気、そうですねえ、今の病名ならば、膀胱炎とか尿道炎の事なんですな。女性が陥り易いのは悋気、これはジェラシー、愛の言葉は愛の裏側、なんて井上陽水が唄ってました。さて、疝気の虫の言葉にもう少し耳を傾けてみましょうか。「実は、僕達はお蕎麦が大好きなんです!口に入ると元気が出るんです!」「困った連中だね、どうも。」「でも、唐辛子が苦手なんです!あれが身体にかかると死んじゃいます…。」「ははァ、それで蕎麦には唐辛子が付き物なのかねえ。」「唐辛子が来たら、別荘に逃げます!」「別荘てなあ何処なんだい」、達が優しく聞きますと、「くるみの様な…、巨峰の様な…、落花生の様な…、枝豆の様な…、金の玉の様な…。」と、男性の下の方でブラブラと、2つの球状の物が所在無げにしてる処、と疝気の虫が言い、姿を隠してしまうんですな。とんだ下ネタになりましたが、こういう噺ですから、何卒ご勘弁を。

さて、夢は現か幻か、達がぼんやりしてますと、「おっ、先生、良い処に居てくれた!苦しんでる人が居るよ!往診に来て下さい。」という事で、駆け付けてみますてえと、患者さんは男性でありました。達の見立てでは、どう見ても疝気でありまして、落ち着き払って、「奥方は、先ずは蕎麦を茹でなされい。用意が出来ましたら、ご主人に香りを嗅がせながら、貴方が蕎麦を食べるのです。そうしましたらあら不思議、たちどころにご主人の疝気は治りましょう…。」、女癖は悪いが腕の良い達が、重々しく自信たっぷりに言うものですから、早速奥方は蕎麦を食べ始めました。その臭いを嗅いだ疝気の虫達は、喜び勇んで、ご主人の身体から飛び出しまして、奥方のお腹に入り込みました。確かに旦那は治ったのですが、これでは単に奥さんに病気を移しただけでありまして、「イテテテテ…、やい、この藪医者の達、何とかしやがれ!」、清楚に見えた奥方が豹変したのですが、達、少しも慌てず、「唐辛子を溶かした水を飲みなさい…」、これまた重低音でのたまいました。「あたしゃあ、病気の金魚じゃないんだよ、目が廻っちまう…。」、さて、唐辛子が奥方のお腹に入りまして、慌てたのは疝気の虫達、こりゃあ逃げないと、と七転八倒の大騒ぎ、「別荘、別荘、別荘が何処にもありません!!」。

ええ、今日はこの後も高座がございまして、慌ただしくなりそうですけれど、明日もまた、お客様とお会い出来れば幸いです。生憎と雨も降り出しそうで、足元が悪い様です、どうぞお帰りはお気を付けて、ありがとうございました、ありがとうございました、ありがとうございました…、m(__)m。
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こんにちわ。私は関東在住の定年退職者です。かって仕事で、大分の加納地区に住んでいた事があります。ネット三昧の日々を過ごしておりますが、下郡病院様は家が近くにあった事もあり、親しみを持っておりました。このブログ、何時も楽しみに拝見しております。著者の方の該博な知識と豊富な語彙、そしてユーモアには敬服の至りです。差し支えなければ、著者の方の読書歴について、ご教示願えれば幸いです。毎朝、ブログを拝見するのを楽しみにしておりますが、御体ご自愛下さい。

こんにちわ~\(^o^)/

今日の落語、ちょっとエッチでしたが、凄く面白かったです。昼休みにお腹を抱えて笑ってしまいました。

書かれてる方は凄い勉強家なんでしょうね。硬い話もお笑いも書けるなんて、尊敬します( 〃▽〃)

毎日楽しみに読んでる大ファンのキウイでした!
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