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寝床 

ええ~、何だか最近、暑くってちっとも眠れやしませんな。昨日は館山だか館林だかで、36℃を超えたってんでしょ。少々打ち水をしても、これぞまさしく焼け石に水、どうにもなりませんや。あたくしのただでさえ細い眼が、益々開かなくなりまして、「おい、お前さん、寝てんだか起きてんだかはっきりしな!」、「うるさいねどうも。あたしゃあ猫好きだからね、時間によって目の大きさが変わるんだよっ!」なんてえ言い返したりして。しかしねえ、敷きっぱなしの煎餅蒲団が悪いのか、はたまた頭に合わない枕の所為か、仕事の所以か、良く分かりませんけれど、お上のやり方にも腹が据えかねるのも、これまた事実なんです。

経済産業省ってんですか、そこのお役人さんが、あたしら国民に、「国のエネルギー政策計画」に関する意見を募ったそうでして、うん、こりゃあ徳川のお偉いさんの8代目、暴れん坊将軍吉宗公の目安箱ってな訳だ、お上もたまにゃあ良い事をするじゃねえか、なんて思ってたんですよ。どうも、2か月に渡って公募したそうなんですが、どうなりましたかってえと、1万9000を超える意見が寄せられたそうでして、その内、原発反対が95㌫超だったそうであります。ところが、安部のヤロウは、「原発推進」「再稼働推進」を断言してやがるんですから、親の顔が見てえや、とはこの事でして、どうせオイラ達の意見を聞かねえんなら、こんな子供騙し、するもんじゃありませんや。ヤイヤイテメエ、民主主義、国民主権をなんだと思ってやがるんだい、このコンコンチキ!!皆を騙そうったって、そうは行かねえぞ、馬鹿野郎この野郎!!

こういう輩が居るんで、ちっとも安眠出来ないんですから、誠に嫌な世の中ですけれど、時を随分遡りまして、安永の頃と申しますから、趣味人として知られた、第9代将軍、徳川家治公の治世の折の事でございます。華のお江戸は八百八町、そうですねえ、今ならばお相撲さんの街の両国近辺、ここは今でも風情がございますから、あたくしの好きな処なんですが、ここの裏通りに、うらびれた長屋がございまして、その名も達、という大家がおりました。今ならば千葉ですか、房総の田舎の産、ご本人はそれがどうも恥ずかしく、江戸っ子でなければならねえや、その為には粋な趣味の1つもねえと、お話にならねえ、という訳で、唯一の自慢出来るもの、それが義太夫を唄う事だったんですな。

この義太夫、元々は歌舞伎や人形浄瑠璃の伴奏として使われていたものなんだそうですが、江戸期になりますと、小唄の一種として庶民に親しまれていたそうなんですな。大家の達もその流行に乗りまして、婀娜っぽい妙齢のこつまなんきんなお師匠さんに岡惚れしながら、何とか幾つかの小唄を仕上げる事が出来ました。エッ、こつまなんきん、ご存じないですか?困りましたな、ええ、野暮は承知で解釈しますと、こつまなんきん、とは元々は浪速の伝統野菜の事でありまして、小振りながらも味の良い南京、即ちかぼちゃの意だったんですが、艶っぽい意味でもあるんですな。つまり、そのかぼちゃ、小さいながらもねっとりとした濃厚な旨味がありまして、英語で言えば、transisitor glamour、小柄でぽっちゃりした肉感的な女性、という意味となります。

偉そうな解釈はこれでおつもりと致しまして、小唄を覚えました達、こうなるとそれを披露したくて堪りません。ところがまあ、達ときたら、悪声の上に音痴、おまけに調子を取るのが大の苦手ときたんですから堪りません。これこそ、下手の横好きなんですが、小さい子供のピアノの発表会の様なものですな。いえね、あたくしもね、幼少のみぎりは大変可愛い毛並みの良いお坊ちゃんでして、母の趣味でマッシュルーム・カットにさせられまして、皆の前でピアノを披露させられる羽目になりまして、恥ずかしいものですから全身汗みずく、いや、えらい目に逢いました。エッ、今、高座に上がってる小汚い親父のお前からは想像出来ねえよ、ですって!?今日のお客は随分柄が悪いや、参ったね、どうも。

ええ、お話を戻しまして、達は長屋の大家さんでもありますから、店子からしてみれば、大家と言えば親も同然でありまして、当初は店子も「よっ!達の旦那!何時聞いても旦那の義太夫は良い調子で、素晴らしい声だねえ!」と褒めそやしていたんですが、元来下手糞ですから、聞くに堪えないとはこの事でありまして、段々と店子達も「風邪を引いちまって…」「二日酔いで…」「歯が痛くて…」「明日はお腹が痛む様な気がするんで…」、何やかやと理由を付けまして、ちっとも達の元に集まらなくなったんですな。

さて、お山の大将の達でして、何、日頃は決して悪い奴じゃねえんですが、余りにも人が集まらないもんですから、すっかりすねちゃったんですな。「やいやい、店子の諸君!君たちは皆、明日には長屋から出て行きたまえ!」、何だか急に余所行きの言葉になった達を見まして、流石の店子達も青くなりました。「おいおい、こりゃヤバいよ。このままじゃあ、本当に追い出されちまうぜ。」「仕方が無えや。お白州に引き出されて、遠島になるよりは余程マシだよ、オイラは行くぜ」「うん、分かった。耳に何か詰めていくか。」てな訳で、店子一同うち揃いまして、大家の元へと向かいます。「ええ~、まいど。大家さんはいらっしゃいますか。」「何だい、いないよっ!俺は寝てるんだ。」「いやいや、その声は大家さんじゃないですか。」「何言ってやがんだい。本人がいないって言ってるんだから間違いはねえよ。世の中に 人の来るこそ うれしけれ とは言うものの お前ではなし、ってえ狂歌があるよ。」「いやあ、何時聞いても達さんの声にはしびれるねえ…。」「本当だよ。久し振りに聞いたら、何だかジーンとしちまったよ…。」

喜び勇んで蒲団から飛び出しました達でして、満面の笑みで、「何でえ、お前さん達。そんなにおいらの義太夫が聞きてえのかい。仕方の無い連中だねえ…。どうしても聞きたい、っていうんなら、支度をしようかねえ。」「よっ!待ってました!」、すっかり気分の良くなりました達、近所の酒屋から樽酒を取り寄せるわ、魚屋からは未だ走りの時分の鰹を捌かせるは、まあ大盤振る舞いでして、あの婀娜っぽいお師匠さんや、未だ寝てるだろうけれど、芸者衆も呼んでおいで、ってな訳でございまして、時ならぬお祭り騒ぎと相成りました。店子連中に加え、綺麗どころに町の若い衆も、一斉に拍手をしますてえと、真打の登場でありまして、紋付き袴の正装に身を包んだ達がしずしずと現れまして、義太夫を唸り始めたんですな。「おい、今日は何時にも増してひでえ出来だな。」「違えねえ。」、すっかり嬉しくなった達には、そんな外野の声は聞こえやしません。夢中で義太夫を唄っていたのですが、フト気付くと、「ガーッ、ガーッ」「スピー、スピー」「ZZZZZ…」。朝も早くからのご酒と、つまみの鰹で腹がくちくなりまして、達の義太夫を子守唄に、一同全員が夢の中、という有り様なんです。

腹が煮えくりかえりそうになった達でしたが、ふと気づきますと、丁稚の崇だけが、オイオイと泣いております。「オイ、お前さんは偉い奴だねえ。そんなにおいらの義太夫が良かったのかい。何処に感動したんだい。」「いえ、旦那、皆が寝ちまって、自分の寝床が無いんです。」

五代目古今亭志ん生、三代目古今亭志ん朝の名人親子の十八番の一席、「寝床」でございました。水無月になりましたし、これからが夏本番、皆様、寝苦しい夜が続くかと存じますが、どうかゆっくりとお休みを取られて、明日への英気を養っておくんなさい。
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