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厩火事

ええ~、お寒い中、毎度毎度のお運び、誠にありがとうございます。ありがとうございます。しかしまあ、えらく冷え込んで参りまして、凍えそうな塩梅だってのに、皆さん、余程閑なんですな、わざわざこうしてお見えになるなんて、って、神より大事なお客様に、こういう事を言ってはいけません。高い所からですが、改めて御礼申し上げます。ようこそお出でになりまして、本当にありがとうございます。

それにつけても可笑しいのは、中国の連中でありまして、シナ海全部オイラのもんだ~、お前の物は俺の物、俺の物は俺の物、ドラえもんのジャイアンじゃないんですから、なんつって、何処の国の飛行機だろうと、俺の土地の空の上を飛ぶんじゃねえぞ、という訳で、「防空識別圏」という事を、いきなり身勝手に言い出したんですな。それには、台北やバンコクや香港に向かう、民間の旅客機まで含まれる、ってんですから、おちおち旅行も出来やしませんし、商社や株屋の連中なんて、商売あがったり、でございます。どうなる事やら、冷やかし半分で見守ってたんですが、世界は広うございまして、中国以外に、もっと大きいジャイアンがいるんですな。勝手に世界の警察気取りのアメリカさんが、そりゃあ黙っちゃいませんや。中国の旦那が、その「防空識別圏」を公表した翌日ですか、その上空に、大型爆撃機を2機飛ばしてるんですな。それも、長時間悠々と飛行したってんですから、珍しくアメ公の連中も良い事をするもんです。中国の親分の習の野郎も、今頃臍を噛んでいる所でしょうが、お宅の所の古い書物に、こうあるじゃあないですか、虎の尾を踏む、天に唾する、ってね。

赤貧洗うが如し、或いは、貧、骨に至る、なんてえ申しますが、あっしなんざあ、毎日益々寒くなるってのに、行火か湯たんぽか火鉢が頼みの綱ですよ、全く。床暖房だ、セントラル・ヒーティングだ、ダイソンの温風機だ、という平成の世の中に、幾ら噺家と申しましても、お江戸の頃の暖房器具じゃあ参ります。何だか足元がゾクゾクッと冷えて冷えて、心までもが寒くなっちまう。そういやあ思い出しましたが、鳩山っつう何だか呑気でお人好し、落語に出て参ります、若旦那顔負けな元総理がおりましたな。彼がまだ野党の頃でしたか、どうもご婦人が嫌いでは無かった様でして、選挙区の北海道に、奥さんではなく、高級クラブのママさんだか何だか、大変綺麗な女性と親しくなったそうなんですな。それがバレちまいまして、その言い訳が、「北海道の夜は寒すぎて…。」ですって。そんなもん、暖房入れりゃあ良いじゃねえか、お足はいっぱい持ってるんだろ、お母さんから沢山貰ってたじゃねえか、と思うんですが、随分とすっとぼけた答えですが、それで何となく収まっちまうんですから、これも人徳なんですかねえ。噺家の上を行く問答でございまして、色んな意味で羨ましい様な、羨ましくない様な…。

一年を二十日で過ごす良い男、これは江戸時代の関取衆を表した言葉でして、当時はお相撲さんは皆さん大スターでありまして、本場所そのものも少のうございましたから、それぐらいの取組で、食うには困らなかった、という訳でございます。そうですねえ、男として羨ましいのは、女房衆を働かせまして、自分は悠々と趣味の世界で遊ぶ、これが出来ますのは、旅館の女将の旦那さんか、髪結いの亭主ぐらいのものでございましょうか。

歴代の将軍が住んでおりました江戸城、現在は畏れ多くも天皇陛下のお住まいですが、その西側に位置しますのが麹町五番町、数々の文人墨客が住んだ由緒正しい所でございます。泉鏡花に内田百聞、白樺派の有島武朗、そうそう、その息子さんで、色悪を演じたら日本一の美男スター、森雅之もこちらのご出身、銀座にほど近いですから、夜の巷でさぞかし浮名を流した事でございましょう。さて、時は遡り、元禄太平の時代、この麹町に髪結いを商う、お信さんという働き者がおりました。お信さんご本人は雨の日も風の日も、寒い夜も暑い日中も、懸命に頑張っているのですが、働けど働けど猶我が暮らし楽にならざり、じっと手を見る、なんですな。それと言うのも連れ合いの達という者がおりまして、この男がちっとも働かない、働かないで何をしているかと申しますと、瀬戸物に凝りまして、その器で酒ばかり飲んでいるんですな。

或る冬の寒い夜、一仕事終えて、凍えながらお信が長屋に戻って来ますと、達はご機嫌の赤ら顔、ご自慢の器にご酒を満々と満たしまして、取り寄せたのでしょう、今が旬の鮟鱇をコトコトと鍋で煮立てておりまして、味噌仕立ての良い香りが漂い、そして艶々と脂が乗った鰤の刺身で一杯やっているんですな。それを見たお信さん、日頃の辛さを思い出したのでしょう、物も言わずにプイと飛び出しまして、勝手知ったる大家の元に飛び込みました。「大家さん、お願いだから聞いとくれよ。あの達の野郎ったら、あたしが苦労して働いているのに、何の優しい言葉もかけてくれず、自分は贅沢三昧、あたしはもう嫌になりました。」これは毎度の事でありまして、中々の苦労人で好々爺の大家さん、年の功より亀の甲でありまして、このままほってはおけない、という訳で、一計を案じたんですな。

「うん、そうだなあ、お信の言う通りだ。達の野郎はどうしようも無い奴だ。つい一昨日だったかな、お前さんの家の前を通ったんだが、ふすまが空いてててな、見ると昼間から金目鯛の煮付けで一杯やってるんだ。醤油と酒の良い香りがして堪らなかったぜ。」「まあ、達ったら、また散財して、どうしようも無いよ、全く…。これじゃあ、いつまでたってもこんな暮らしのままだよう…。」「お信さん、まあお聞き。あいつはもう駄目だろう。思い切って別れちまいな。もう、別れちゃどうだい。別れ、別れり、別りる、別りれ、別りろ。」「大家さん、古文の授業じゃないんだよ!」「ああ、すまんすまん。でもな、お前さんは正直どう思うんだい。」「大家さん、そんな言い方は無いじゃありませんか。千人前のお刺身を長屋に配って歩いて、樽酒全てを飲んだんじゃありません。それに、時には優しくて、あたしの疲れた足を揉んでくれる事もあるし、お前は江戸一番のべっぴんで可愛いな、なんて言ってくれる事もあるんですよ♡」「何だい、何だい。さっきまで鬼の面して泣いてたのに、今度は惚気かい、やってられねえな。」「ねえ、大家さん、あたしは達の本心が知りたいだけなんです。優しい時もあれば、今日の様に酷い時もある、共白髪まで添い遂げてくれるんでしょうか。達は本当にあたしだけを愛してくれているんでしょうか。」「お前さんに分からねえものが俺に分かるかい。」

とは言え、伊達に沢山の店子達の世話をして来た訳では無い、学のある大家さんでして、或る妙計を授けたんですな。「達の野郎は瀬戸物の器を大事にしてるんだろう。お前さん、それを割ってご覧よ。」「えっ、そんな事をしたら叱られちまいますよう。」「黙って最後までお聞き。昔の唐の国に、孔子さんという偉い人がいたんだな。で、孔子さんが留守の時に、馬小屋が焼けちまって、大事にしていた白馬が死んじまったそうだ。帰って来た孔子さんは、弟子から火事の報告を受けて、『そうか、皆は無事だったか』、と言って、何一つ責めなかったそうだよ。お前さん、これから直ぐに帰って瀬戸物を割って、大声を出してご覧よ。そこで一言でも、『お信、無事かい』、と心配すれば、達の野郎もまだ見込みがあるだろうよ。」

すっかり得心が行きまして、早速長屋に戻りましたお信さん、いきなり達の秘蔵の瀬戸物の酒器を叩き割りました。そうしますてえと、「おい、お信、無事かい、大丈夫かい。」と優しい言葉がありまして、ああやはりあたしを愛してくれているんだわ、とホロリと来たお信でして、「ああ、お前さん、あたしゃあ本当に嬉しいよ。そんなにあたしが大事なのかい。」「そりゃそうだ、お前に怪我でもされてみろ、明日から酒が飲めねえ。」

三遊亭圓楽師匠、古今亭志ん朝師匠、そして八代目桂文楽師匠、十八番の一席、「厩火事」でございました。こうして話をしてますてえと、どうやらチラチラと雪が降って参りまして、皆様、お帰りの際は、どうぞお足元にお気を付けになって、又明日のご来場をお待ちしております、ありがとうございました、ありがとうございました…。
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