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❤ 三枚起請 ❤❤

何だか背筋がゾクゾクと冷え込む如月も漸く終わりまして、いよいよ年度末、如月でございますか。年度末の決算だ、確定申告だ、納税だ、歓送迎会だ、なんて頭が痛く忙しない月ではありますが、そちらは暫しの間、お忘れ頂いて、笑いの一席で、日頃の憂さを晴らして頂ければ、あたくしとしても、これ程嬉しい事はございません…。

ええ~、3月には、夢見月に桜月に花見月、なんてえ粋な言い様もあるようでございますが、雛月、と呼ぶのも大変結構でございます。灯りをつけましょ ぼんぼりに お花をあげましょ 桃の花 五人囃子の笛太鼓、下手糞な唄でお耳汚しですが、これ、何とまあ平安時代から行われてるんですから、もう1400年近い歴史があるんですな。あたくし、不勉強で大変お恥ずかしいんですが、頭の白い爺さんと若者が、雛段に座ってやがるんですが、あれ、左大臣と右大臣なんですな。あたくし、どうも三人官女ばかりに目がいっちまって、この爺さん、何でいるんだろう、何て思っておりました。まあ、内裏雛は、恐れ多くも天皇皇后両陛下なんですから、重臣が居るのは当たり前、無知程怖ろしいものはございません、赤っ恥をかく所でございました。

さて、如月と申しますと、何と言っても出会いと別れの季節、サヨナラだけが人生だ、なんて申しますが、色んな意味での卒業、出発、そして年度替りでもありますな。

傾城の恋は誠の恋ならで 金持って来いが本当の恋なり、なんてえ、昔の方が言い残しております。傾城、城を傾ける程の美女という意味でございまして、江戸は元禄文化の華と申しますか、吉原の花魁の事を言い表した言葉なんですな。広いこの世には女と男しかおりませんで、狐と狸の騙し合い、ところが常に女性の方が一枚上手の様でございます……。

華のお江戸は八百八町、現在では相撲取りばかり居る両国の地に、遊び人で有名な、医者の達という者がおりまして、毎日の様に押し掛ける患者さんはそっちのけ、どうも、連日連夜、吉原に入り浸っております。その達っつぁん、腕は悪く無いんですが、女好きなのが珠に傷、口も悪いんですが根は好人物、こういうのをうどん屋の釜、湯ぅばっかり、言うばかりと申します。吉原に通うのはまだしも、行ったっきり戻って来ないっていうじゃあ患者さんが堪らない、あれじゃあ渡り鳥だよ、なんて戯れ口を叩くものもおりまして、大家さんの耳にその悪評が届いたんですな。大家と言えば親も同然、店子と言えば子も同然と申しまして、こりゃあ一肌脱がねばならぬ、という訳で、朝帰りした達を捕まえたんですな。「オイ、達。おめえ、花魁にすっかり入れ込んじまって、家に帰って来ねえ、って言うじゃねえか。そいつはいけねえよ。患者様を直すのがお前の仕事だ。遊ぶのは良いがそればかりじゃあいけねえよ。」「エッヘッヘ。そいつが良い女でねえ…。」「何でえ、のろけかよ。ところでシロかいクロかい、それともブチかい?」「犬じゃねえよ、大家さん。」「ブチって言ったのは冗談だ。素人か玄人か、って聞いてんだ。」「今は玄人なんですがね、3月の終わりに年が明けたら素人になるんでさあ。」「ホントかい!?」「ええ、なんせあっしは起請文も貰っておりますんで。」

ここで言う起請文とは、現在ならば契約書の事なんですな、もしこの誓いを破ったならば、神様から如何なる罰を受けても構わない、という訳でして、その文には確かに達の名前がありました。「何々…。一つ起請文のこと。私こと、来年3月、年が明け候えば、あなた様と夫婦になる事、明らか也。芸名喜瀬川こと本名壇蜜。」「エッヘッヘ、大家さん、どうです!?」「ふ~ん。」「ふーん、って目出度い事じゃありませんか。無事に祝言の折には大家さんもお呼びしようと…。」「この女、品川にいなかったかい。」「へえ。」「酒が大好きで、目はスッと切れ長で、華奢な首元、豊かな腰つき、抜ける様な白い餅肌、藍の着物が良く似合うんだ…。」「へええ、大家さん、良く知ってるねえ。でも何で?」「俺も同じ起請文を持ってるぜ。」まあ、喧々囂々の大騒ぎ、何度も起請文を見ましたけれど、何処からどう見ても、両者共に同じ女性から貰ってる訳でして、男の立場からすれば堪ったもんじゃありません。両人うち揃って身支度をし、いざ吉原に向う準備をしておりますと、越後屋の若旦那がやって参りました。「いやね、大家さん、ちょいと近くに寄る機会があったものだから、親父が旬の鱈と甘鯛を持って行け、ってんで参りました。」「ああ、そうかい。上がってこいよ。」「おや、珍しいねえ、達さんもいるじゃないか。」達さんも大家さんも勢いを削がれまして、まあ茶でも一喫、となりました。「ところで若旦那、お前さんもそろそろ良い歳だ、未だ身を固める積もりはねえのかい。」「……。」「おい、どうしたい、へええ、さてはお前さん、良い相手がいるのかい、照れてちゃあ分からねえよ。俺達の仲だ、遠慮する事はねえよ、言っちまいな。」「ええ、実は相手は吉原におりまして…。」「ふうん。」「前は品川に居たんですがね、酒が大好きで、目はスッと切れ長で、華奢な首元、豊かな腰つき、抜ける様な白い餅肌、藍の着物が…。」「もう1枚出そうだな。」

畳が破れそうな大騒ぎ、あいつの化けの皮を剥いでやる、許せねえ、男の純情を弄びやがって、となりましたが、落ち着きを取り戻しますと、そこはお三方も大の大人でありまして、何やらひそひそと相談致しまして、いざ吉原へ参ろう、と相成ります。

「女将さん、騙され連中が参りました。」てな訳で、女将さんも事情を知ると深く同情致しまして、大家さんが部屋を借り、達と若旦那は小部屋に隠れる事となりました。「アラア、大家さん、いらっしゃい、最近お見限りじゃないの、寂しかったわあ。」「何を寝言言ってやがる、お前、達の野郎にも起請文を渡してねえか。」「嫌だよう、お前さん。あんな八月の槍みたいな奴に、そんなもの渡さないよ。」「八月の槍って何だい。」「盆の槍だよ。ぼんやりしてるって事さ。」「オイ、八月の槍、出ておいで!」「ぼんやりの達ですが。」「アラマア、貴方もいらっしゃったの?」「ヤイ、お前、若旦那にも文を渡したろう!」「嫌だよ、貴方…。あんな安物のお稲荷さんに渡しゃあしないよう。」「安物のお稲荷さんって何だい。」「鳥居が無い、取り柄が無いって事だよう。」「安物のお稲荷さん、出ておいで!」「取り柄が無くてすいません。これでも越後屋の若旦那でございます。」

延々と問い詰められた花魁でしたが、開き直ると俄然強くなるのは女性の性でしょうか、口八丁手八丁、何だかんだと言い出します。「大の男が3人も集まって、こんな事しか出来ないのかい、すっかりアンタ達が嫌いになったよ。花魁はねえ、男を騙すのが商売さ。」「そんな事は承知の上だ。だがよ、起請文まで使う事はねえだろうよ。」「フン、何枚あろうが、驚いちゃあこっちが堪らないよ。この江戸で、一体何枚起請文があると思うんだい。」「それを言っちゃあいけねえよ。起請文に嘘を書くと、熊野の神の遣いの烏が3匹死ぬって言うんだぜ。」「アタシはね、世界中の烏はみんな殺してやりたいぐらいさ。」「ええっ、何でだい!?」「ゆっくり朝寝がしてみたい。」

オチを語るのは愚の骨頂、野暮天で全く粋ではございませんが、♪ 三千世界の烏を殺し 主と朝寝がしてみたい ♫ 、これ、維新の志士、高杉晋作が造った有名な都々逸なんですな。朝方鳴く烏が煩く、本当に好きな相手と、ゆっくり寝ていられない、という訳でございます。さて、年度末最後の月ではございますが、皆様、お風邪を召す事の無き様、どうかごゆっくりと眠りを取られて、お仕事にお励み下さいまし。さて、数日間、この高座はお休みとなりまして、あたくしは博多の地に行って参ります。来週火曜日にお会い出来る事を楽しみに、暫しの間、御機嫌よう左様なら。
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