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堀之内

いやあ、昨日はちょいと会合がありやしてね、少々ご酒を頂きまして、大変楽しく、関係者の皆様には脚を向けて眠れません。この場をお借りしまして、厚く御礼申し上げます。今後とも末長く何卒宜しくお願い致します。何時もより深く頭が下がっております…。さて、カラスカァと鳴いて目が覚めましたら、何と全裸で寝ておりまして、どうもくしゃみが止まらない、咳は出ますし喉の調子もいま一つでして、お客さんにあたくしの声がちゃんと届いているのか心配なんですが…、ああ、大丈夫ですか、しょっちゅうご酒と煙草と辛い食べ物で喉は鍛えてますからな、お陰様で何よりでございます。え、そりゃあ只の不摂生だ、御尤も御尤も、でもねえ、浮世稼業は中々辛いもの、それでも大事なお付き合いですから、そうも行かないんですよ。勿論、高座はキチンと勤めさせて頂きます…。

ええ~、熱い番茶なんぞを飲みながら、ぼんやり新聞を眺めておりましたら、いや~酷いもんですな。今回の大震災で、まだ仮設住宅に住まわれている方がいらっしゃいまして、本当に胸が痛む思いがしますが、その精神的肉体的疲労で亡くなられた方々は、3月末の時点で1600人を超えたそうでして、衷心よりご冥福をお祈りいたします…。ヤイ、政府の脳無しども、何とかしやがれってんだ。手前らはのうのうと高給を取って、無責任な事ばっかりしやがって。おいらが犠牲者だったら化けて出て、毎晩枕元に立ってやるぞ。

そして、福島第一原発から20㌔沖の海で獲れたアイナメから、今までで最大値の放射性セシウムが出たそうでして、何と2万5800ベクレルって言うんですから、堪りませんや。これ、国の定める基準値の258倍なんですって。政府は原発事故はもう終結したかの様な物言いですが、ちっとも落ち着いてないじゃないですか。まだ放射能はダダ漏れなんじゃないですかねえ。福島で獲れたドジョウを、ドジョウに毎日鱈腹食べさせたいもんですな。そうすれば、あの悪相もちっとはまともになるんじゃないですかね。

ところでアイナメなんですが、旬は冬から春、大変結構なお味なんですな。しっかりとした旨味のある白身のお魚でして、干物よし天婦羅よし、勿論刺身に煮付けにお味噌汁と、あたくしも文字通り舐める様に食べちゃうんですが、以前都内に出張した折に、杉並に友人がおりまして、朋あり遠方より来たる 亦楽しからずや、君に勧む 更に尽くせ一杯の酒、何だか李白や杜甫の気分となりまして、アイナメを肴に、早春の一夜を、鮨屋で一献酌み交わした事がございます。杉並と言えば閑静な住宅街でありまして、その鮨屋はかの有名な妙法寺の近くにございまして、このお寺、江戸時代から連綿と続く由緒正しき厄除けのお寺でございます。葛飾北斎に安藤広重、天下の将軍様まで参拝され、浮世絵の題材にもなってますな。友と訪れた折には、境内に桜が爛漫と咲き誇っておりまして、何だか厳粛な気持ちになったものでしてね、粗忽者の二人ですから、厄除けをお願いしたものでございます。

時は遡り、元禄は泰平の世の中、その時代にもそそっかしい者は居たんですな。畳職人の達、という者がこの噺の主人公、腕は良いし中々の気風の持ち主、江戸っ子は五月の鯉の吹き流し、口先ばかりではらわたは無い、なんて申しまして、口が悪いんですがさっぱりしてるんですな。廓に行く回数が多いのと、花魁に入れ上げるのが玉に傷、そして達の欠点はもう1つありまして、それが慌て者でそそかっしい所だったんですな。

お天道様が登りまして、サァ素晴らしい朝が来た、目覚めの朝だ、ってんでまず顔を洗うぞ~、って水を汲むのにザルを使っている次第、顔を犬で拭こうとして吠えられたり、今日の仕事で行く所までうろ覚え、ってんですから、こりゃあ周囲が堪りませんな。心配した女房のお信が、「アンタ、アンタの女遊びには、病気と思って泣く泣く目をつぶるよ。でもねえ、そんなにそそっかしいんじゃあ、何時かお得意様をしくじるんじゃないかい。あたしはそれが心配でならないよ。後生だから、一度、堀之内の大師様、妙法寺に願掛けに行っておくれよ。」恋女房のお信から、そこまでかき口説かれたのでは、達も観念しまして、「よし、分かった、それじゃあ早速行って来よう、善は急げだ。」弁当を風呂敷に包みまして、一路妙法寺へと参ります。

ところが、行けども行けども着かないんですな。暑い暑い昼下がり、右に曲がって左に折れて、横町を左、そして右、やれやれ随分遠かったがやっと堀之内に着いたぜ、と思ったら自分の家に戻ってたりして。再度出発、漸く辿り着いたんですが、坊主に手を合わせて嫌な顔をされたり、賽銭は財布ごと投げる始末、開いた風呂敷には弁当では無く、女房の枕が入っておりました。ほうほうの体で願掛けを済ませまして、すっかり汗まみれの身体を流そうと、息子のたか坊を連れて、銭湯へと参ります。銭湯への道、慌て者の達も、これだけは間違えないんです、何故なら達の長屋の隣ですから。さて、銭湯でたか坊の着物を脱がせてやる、中々父親らしい所もあるんですな、感心感心と思っておりますと、知らない男の子を脱がせてたり。「よしたか坊、湯船に入るか。」「父ちゃん、ふんどし脱いでないよ。」幼い息子の方が余程しっかりしてるんですな。親子仲良く湯船に浸かり、百まで数えまして、さあ、たか坊、身体を洗ってやろう、ってんで洗い始めたんですが、「いや~、すっかりたか坊も立派になったな。肩幅も広くなったし、腕の肉もしっかりしてる。父ちゃんに良く似てうり二つだ。粗忽者の俺だが、お前がしっかり育ってくれて嬉しいぜ…。」オイオイ泣き出す始末、そこにたか坊が「父ちゃん、鏡を磨いて何を泣いてるんだい。」

青梅街道を真っ直ぐ抜けて、帝釈天通りに入り、暫く歩きますと、大きな大きな山門が見えて参ります。ここがこの噺の舞台となりました妙法寺の堀之内でございまして、あたくしも少々慌てる癖がございますから、今度都内に行った折には、久方振りに願掛けに行って参ります…。
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