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鰻の幇間

それにしても目まぐるしく変わる天気でございまして、昨日の大雨が嘘の様にカラリと晴れ上がりまして、何だか気持ちの良い朝でございますねえ。こりゃあ、久し振りに自転車で出勤出来そうだ、サイクリングサイクリングヤッホーヤッホー、てな具合で、ハンドルを握った瞬間ですよ。ハンドルの裏側、ちょうど見えない所に蛾がくっついてやがってね、ムニュッとした嫌~な感触でしたし、鱗粉が手に付いちゃって、「ウエッ!」と声が出ちゃいました。ようく手を洗って気を取り直して、信号にも引っ掛からず、快調に漕いで、段々速度が増したその時ですよ、今度はカナブンが、あたしのおでこのど真ん中に見事命中しやがってね、すっ転びそうな目に会いました。何だか今日は妙に虫に縁のある日だねえ、何かの虫の知らせかい、虫の居所が悪いのか、いやいやそれとも腹の虫が鳴いてやがるのか、駄洒落はこれぐらいにしておきましょう、じゃないと談志師匠に怒られちゃいます。

ええ~、これはあたくしども病院にも縁のある話でございますが、かってのこの国には、幇間、ほうかん、と読みますが、所謂太鼓持ち、宴会なんぞのお座敷においてお客様のご機嫌を取って芸もお見せして、場を盛り上げるんですな、太閤殿下豊臣秀吉公に仕えた、曽呂利新左衛門がその元祖でございまして、それから数百年、昭和の戦前までは続いた職業でございます。文豪夏目漱石の傑作「坊ちゃん」にも、野だいこ、なる幇間をイメージしたキャラクターが登場しますし、まあ、お笑い芸人の元祖とも言えるんですが、そうですね、今も尚その香りを残すと言えば、吉本興業所属、お笑いコンビサバンナの高橋君、彼の芸風なんぞは将に古の太鼓持ちの匂いが致します。これが海外になりますてえと、ま、ピエロですとかクラウンですとか、有名なところでは、トランプの絵柄で使われるジョーカー、これは宮廷に仕える道化師なんですな、ジャックとかクイーンとかキングは王族でござんしょう、それに関連したものなんですな。では、何でこれが病院に関係するかと申しますと、映画「パッチ・アダムス」で一躍有名になりました、ホスピタルクラウン、道化師が患者様を笑わせて、心のケアの手助けをしてるんですな、実際に癌患者が劇的に回復した例もあるようですから、これが本当の、笑う門には福来たる、でございまして、何だか暗い人には幸せはやって来る筈がありませんぜ。

この幇間を務めるのにも、やはり技術がございまして、一流と二流の差があります様で…。時は元禄、季節は梅雨が明けるか明けないかという、ちょうど今時分の季節でございまして、一八という幇間が、今宵も浅草の街をのたりのたりと歩いておりました。どんなに下手糞な幇間でも、身なりだけを気を使うものでして、良い着物に帯に下駄を履いていなければ、誰にも相手にされないんですな。「何だか気が滅入るねえ…、近頃は何にも旨い物を喰ってねえや。少し前が懐かしいや、やれ河豚だ鯛だ鰻だ樽酒だってね、『よっ、旦那、今日も男振りが素晴らしいですな、これが所謂、後光が射してるって奴ですか』、あのお旦は禿げてたんでしくじったが、ちょいとお旦をおだてて良い心持にすりゃあ、ヨイショでゴチになっちゃうよ、ご祝儀まで頂いて、てなもんだよ…。」めかし込んだ一八ですが、何だか元気がありません。それもその筈、何せ江戸の街が暑いものですから、景気の良いお旦は、熱海だ草津だ房総だ、と避暑に出掛けちゃってるんですな。雷門を過ぎて、仲見世を過ぎて左に折れますと現在で言う浅草六区の辺り、ウロウロしている一八の目の前に、派手な帯を締めて、りゅうとした身なりの大島紬、下駄は少々頂けませんが、見るからに旦那衆が歩いて参りました。この機会を逃す一八ではございませんで、「いよ~、旦那さん、今日はお一人でござんすか、何ですな、先だっては柳橋と神楽坂で、まあ大層綺麗な芸者衆を沢山お連れになって、遠目から拝見してたんですがね、まあそんな時にお声をかけるのは野暮の骨頂、遠慮してたんですが、今日はお会い出来るなんて嬉しいねえ、よっ、色男、元禄の業平!当院のO君!」「ん…、もしかして一八さんかい。」「何だい、旦那さん、水臭いや、一八と呼び捨てにしておくんなさい、ねえねえ、ところで旦那、たまには男二人も乙なもの、どうでしょう、差しつ差されつ、まずは何処かで一献ってのは。」「ああ、そりゃあ構わんが、何時も通りの幇間と旦那じゃ詰まらねえ、今日は野郎二人きりだ、君と僕の間柄で、鰻でもどうだい。」「よっ、征夷大将軍!流石に遊び慣れてる旦那さんは言う事が違うよ、粋だねえ。」

さてさて、二人、連なりまして、旦那さんの馴染みだという鰻屋へと参ります。二階の部屋に通されますてえと、流石に旦那は違います、「鰻の特上を二つ、ご酒はそうだねえ、灘の樽酒を人肌燗で貰おうか、ついでに白焼きと鰻巻きに半助豆腐と肝焼きも全て二つずつ貰おうか。」鰻屋は待たせる店が上、直ぐ出る店は下、なんて申しますが、空きっ腹に灘の銘酒が段々と効いて参りまして、無礼講と相成ります。日頃の幇間の役割を忘れ、君と僕の間柄、鰻もすっかり平らげまして気分は上々の一八、旦那が「ちょいとはばかりに行って来るよ。」「ああ、どうぞどうぞ、本当に旦那は良いお人だ、きっとご商売も上手く行くに違いねえ。ごゆっくりどうぞ、あっしはもう少しご酒を頂いて…。」「ああ、良いよ良いよ、はばかりに行ったついでに、女将に頼んでおこう。」「行ってらっしゃいまし。」

♫ 逢えば笑って 別れにゃ泣いて 噂聞いては 腹立てる ♫、思わず都々逸が出たりして、随分と聞こし召して真っ赤っ赤の一八、機嫌良く手酌で杯を重ねていたんですが、旦那がちっとも戻って来ないんですな。半刻も過ぎた頃でしょうか、ふすまが空きまして、女将が来たんですな。「あの、お連れ様は随分前にお帰りになりましたが…。」「えっ、旦那帰っちゃったの。何だい、一言声を掛けてくれりゃあ良いのに。全く人が悪いや。」「あの~。」「何だい。」「お勘定を…。」「冗談言っちゃあいけないよ。」「いえ、お連れの方がお帰りの際、連れは良い気持ちで飲んでるから、俺は酔っ払っちまった、お先に帰るよ、と仰って…。」「何だい何だい、本当かい!」「ええ、九両になります。」「おいおい、それにしても高すぎねえか。」「ええ、お連れさんのお土産、鰻重五人前も入っております。」「………、ちきしょう、やられた…、それにしても敵ながら天晴れだねえ、今日はあたしの負けだ、仕方無いねえ、分かりやした、なけなしの金だ、持って行きな…。」しょぼんとした一八、階段を下りまして、「おい、下駄」、さて履こうとしましたら、これだけは自慢の桐の本柾の逸品が無いんですな。「ああ、あれはお連れの方は履かれてお帰りになりました。」

三代目古今亭新ん朝の十八番、「鰻の幇間」の一席でございました。ご来場の皆様、週末はまたもや下り坂のお天気の由、どうかお気を付けになってお帰り下さい、それでは来週の又のお越しをお待ちしております…。
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まとめtyaiました【鰻の幇間】

それにしても目まぐるしく変わる天気でございまして、昨日の大雨が嘘の様にカラリと晴れ上がりまして、何だか気持ちの良い朝でございますねえ。こりゃあ、久し振りに自転車で出勤出...

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