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船徳

昨日の大分は何と30℃を越したそうで、道理で暑かった筈ですな。いきなりの予想外の夏日でして、生憎の曇り空、蒸しちゃって蒸しちゃって堪りませんで、職員の方々に冷菓か水菓子の一つでも差し入れをすれば良かったなあ、と思いましたが既に後の祭り、まあこれからが夏本番ですから、皆さん、もう暫くお待ち下さいまし。それにしても暑さのせいばかりでは無いんですが、昨夜は殆ど眠れませんで、今日は長い一日ですので、何とか頑張りたいと思っております。それにしてもねえ、今日もお暑い中、多くのお客様がお見えになって下さって、呑気で暇だねえ、何つって、これはご無礼を申し上げて大変失礼致しました、こう暑いと本音が出ちゃうって、これも冗談ですからね、どうも頭よりも先に口から産まれたもんですから、ねえ、江戸っ子は五月の鯉の吹き流しって申しまして、ほら、鯉のぼりの腹の中には何も無いですからね、何の他意もございません、ほらこの通りって、犬が降参してるんじゃねえんですから、高座でお腹を出しちゃあいけませんな。

こうして段々と暑くなって参りますと、私の親父の住んでおりました浅草は浅草寺では、ちょいと早いですが、ほおずき市の季節ですな。ほおずきという草、お彼岸の際にお墓でカラスが突っついたりしてますが、大人は癪(腹痛の様なものですな)を切り、子供は虫の気(ひきつけにかんしゃく)を去る、なんて申しまして、薬草として大変珍重されておりました。そしてこのほおずき市、元々の由縁は四万六千日、という功徳日でございます。毎年七月十日に浅草寺に参れば、四万六千日分のご利益が得られる、そして一升分の米粒が四万六千、よくまあ数えた野郎がいたもんですが、一生と一升をかけた、何て申しまして、年々歳々全国津々浦々から凄い数の参拝客で賑わう訳なんですな。この市、元々の始まりは江戸時代、亨保年間と言いますから、松平健が馬に乗ってサンバを踊って大暴れしていた頃、おっと失礼、八代将軍徳川吉宗公が善政を敷いていた頃に相成ります。

その時分は天下泰平、ひねもすのたりのたりかな、という訳でございまして、華のお江戸は八百八町、住民は皆平和に暮らしておりました。ところがこう気楽な日々が続きますてえと、ついつい安楽な方に流れてしまうのは人の世の常でございます。日本橋蠣殻町は呉服屋の若旦那、徳兵衛さんという方がおりまして、優男で中々の二枚目で金離れも良い、ウチにもそういう羨ましい野郎がおりますが、そうなりますてえと、若後家から花魁から大店のお嬢さんから、ほっておく筈がございません。「あら、徳さん、ちょいと寄っておいでよ」「いやだよう、うちでお飲みよ」「今夜はここで飲み明かさないかい」なんて次第でして、ついつい遊びが過ぎまして、親元からはきついお灸を据えられた揚げ句、勘当されてしまいました。手に職がある筈は無し、甲斐性無しの若旦那は、流れ流れて、平成の今では巨大高層マンションが立ち並ぶ辺り、眼の前に流れるは文豪永井荷風の同名小説で知られる隅田川でございまして、大川端の船宿の居候と相成りまして、毎日暇で仕方無い若旦那、船頭の親方に頼み込みます、「親方、する事はねえし、これじゃあどうしようもねえ、あっしにも何か手伝わせておくんなさい」、船頭達も皆賛成致しまして、渋々ですが、親方の指導の元、新米船頭の誕生でございます。

色男、金と力は無かりけり、親方の懸命な指導も何処へやら、使う力は女を抱くばかりで腕力なんてありゃしません、船の渡しで控えていても、お客さんからはちっともお声が掛からないんですな。時は流れて四万六千日----夏の暑い盛りでございます、今も昔もその時期の渡し船は、浅草寺のご利益を求める参拝客で満員御礼、とうとう船頭達が出払ってしまったんですな。親方の心配も何処吹く風、いよいよ待ちに待った出番だ、という訳で、若旦那の徳さんの張り切りぶりは大したものでございました。狭い船に満員のお客さんを乗せて、颯爽と川を渡ろうとしますが、ちっとも前に進みやしません。心配したお客が、「おいおい、そんなへっぴり腰で大丈夫かい」と声を掛けますてえと、「へえ、お任せ下さい、どうか大船に乗った積もりでご安心下さい、先だってはお客さんを一人川に落としちゃいましたが、今日はきっと大丈夫でしょう」「何が大船だ、小舟、いやいや泥船じゃねえか、冗談じゃねえよ」と喧々囂々、挙句の果てには、浅瀬に乗り上げ、船には水が入るは、晴れ着のお嬢さんは弁当ごと川に落ちるは、大騒動となりましたが、若旦那の船は、ほうほうの体で漸く岸辺へと辿り着きました。「おい、船頭さん、帰りはどうするんだい」と聞かれた若旦那、「お客さん、お帰りは船頭を一人雇って下さい」。

黒門町の師匠、戦後最大の名人と呼ばれ、非常な艶福家として知られた、八代目桂文楽の十八番、「船徳」の一席でございました。暑気払いとして、暫し笑って頂ければありがたく存じます。おあとがよろしいようで…。
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