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KITANO BLUE

この寒い時期になると思い出す事があります。赤紫色のYシャツ、ノー・ネクタイ、濃紺のスーツを着て黒いサングラスをかけた元刑事の男と、黙して何も語らない不治の病を抱えた女の物語、98年1月末公開、第54回ベネチア国際映画祭金獅子賞受賞(日本人監督がこの栄誉を獲得するのは何と40年ぶり)、北野武監督作品、「HANA-BI」であります。

僕、67年生まれの今年45歳ですが、この世代の男の子にとってビートたけしは、忌野清志郎と並んで、ライフ・スタイルにまで強く影響を及ぼした本当のヒーロー、真のカリスマでした。彼の出演するお笑い番組は全てチェックし、木曜深夜のオールナイトニッポンは、カセット・テープ(確か今でも何処かにある筈です)に録音して、翌週まで聞き続ける程でして、ラジオ放送の翌日は、クラス全員がたけし風の口調となり、首をコキコキと曲げていたものです。たけしの凄みは、活躍するフィールドを自らの手で広げ続けた事にあります。全ての民放でレギュラーを獲得、高視聴率を叩き出し、お笑い番組のフォーマットを再構築(今でも形としては残っていますね)し、音楽活動を始め作詞作曲をし全国縦断ライブ・ツアーを敢行、教養番組にニュース番組を手掛け、絵を描きピアノを覚えタップ・ダンスを習い、そして役者としても大島渚監督の「戦場のメリークリスマス」で脚光を浴び、テレビ・ドラマでは、刑事から犯罪者から宗教家まで演じる幅の広さ、将に八面六臂、縦横無尽の大活躍でした。

そして、彼は総合芸術の集大成とも言える、映画製作と出会います。デビュー作である「その男、凶暴につき」、僕、89年8月12日の公開当日、酷く暑い中、朝一番の上映に行きましたが、衝撃的な印象を受けました。僕は最後の映画世代の人間でして、小学生当時の映画館は朝8時からの上映で3本立ては当たり前、大分の田舎町でさえ10近くの劇場があり、R指定なんて野暮なものは無く、脂の乗った頃のキューブリックの新作や絶頂期のコッポラの新作に黒澤明のカンヌグランプリ作品、ジャン・ポール・ベルモンドからジャン・ギャバンから、エリザベス・テイラーからイングリッド・バーグマンから、伝説的な文芸作品からミュージカルから、邦画からSFからミステリーから、当時公開された殆ど全ての作品をスクリーンで観ているのはちょっとした自慢です。また、両親が極度の映画好きでして、小学生の僕を連れて、オールナイト上映に行くなんてしょっちゅうでしたし、当時はフィルム・マラソン、なんてイベントもありましたねえ。読んで字の如し、1日かけて20本ぐらいの映画をかけるんですね。通しのチケットを購入しまして、お弁当を3つ作って貰って麦茶を持って、足繁く通ったものです。今思うと随分ませた小学生ですよね…。閑話休題、僕の長い鑑賞歴の中でも、北野武の才は眼を見張るものがありました。ホームレスのアップから始まるオープニング、唐突に起こる暴力とその連鎖、極めて理不尽な死、極端に台詞が少なく、常に緊張感を孕んだ間、執拗に延々と続き息遣いまでが聞こえる追跡のシークエンス、合間合間に挿入される、エリック・サティのピアノ。これは途轍も無い才能が現れた、北野武は只のペンキ屋の息子でも元売れっ子漫才師でも無く、世界的な才能を持つ映画監督のデビュー作に、僕は今まさに立ち合っている、と思い、全身が身震いする思いがしたものです。「ダビンチを見よ。モーツアルトを見よ。あれこそが偉大な芸術家だ。」と言ったのはドビュッシーでしたか、その気持ちが卑小な僕にも分かった様な気がしたものです。

北野武の偉大さは、埋もれていた役者や新人俳優を見出だした所にもあります。「その男、凶暴につき」での殺し屋を演じた白竜とエリート警察署長役の佐野史郎、そして裏の顔を持つ実業家に岸部一徳。「3-4x10月」での組長役は豊川悦治。「あの夏、一番静かな海」でのサーファーを演じた真木蔵人。「ソナチネ」での舎弟役は大杉蓮と寺島進、「キッズ・リターン」での親友役2人は金子賢と安藤政信。映画公開当時、佐野史郎や大杉蓮や寺島進はくすぶっており無名の存在、岸部一徳は役に恵まれず、豊川悦治や安藤政信は殆ど新人と言うのですから、その慧眼そのセンスには驚くばかりです。

僕の北野武映画に対する極めて高い評価は続きました。中でも、アット・ヒズ・ベスト、圧巻だったのは「ソナチネ」です。ところが、お客さんや映画評論家からは、難解だ、意味が分からないと酷評ばかりで、1週間で上映は打ち切られました。確かに僕が劇場に行った際も、客は僕以外は怪しい感じのオジサンだけ、僅か2人での映画鑑賞でした。この「ソナチネ」、何が凄かったかと言いますと、暴力と笑い、美しさと汚なさが見事に同居し、絶妙のバランスを保っている所です。久石譲の音楽も素晴らしいんですね。さて、些か不謹慎なシークエンスを1つだけご紹介しますと、ガラの悪いアンちゃんが、身体の細い虚弱体質の男の子に向かって、「こんな奴が喧嘩出来るのかよ!」と威勢良く絡みます。弱々しい男の子は急に激昂、アンちゃんの腹にナイフを突き刺すのです。シーンが変わって、両者が沖縄空港に着いた際、弱い子がアンちゃんに、「暑いですね、アイス食べます?」「腹が痛いから食えねえ」、いや~凄いセンスとリアリティとギャグだなあ、と心から感服したものです。この映画は、依頼されて沖縄に向かう男達の話なんですが、罠にはめられ、徐々に絶望的な状況に追い詰められるんですね。仕方が無いので、海に面した隠れ家で人目を避けた生活を送るのですが、美しい石垣島の海と暇を持て余し遊びに興じる男達、突然襲う暴力のコントラストは、もうアートの域に達していました。僕は興奮し、素晴らしい傑作と周囲に触れまわったのですが、映画好きを自称する人も余り相手にしてくれず、歯噛みする程悔しい思いをしたものです。

この絶望感、日本の優れたアーティストは多かれ少なかれ味わっている、と思うのですが、北野武の映画監督の才能を認めたのは、海外でした。酷評続きだった「ソナチネ」は、カンヌ映画祭で上映され、イギリス国営放送BBCにより「21世紀に残したい映画 ベスト100」に選ばれ、「キタニスト」と呼ばれる武ファンが世界中に生まれるきっかけとなりました。そして、冒頭に挙げたベネチアグランプリ受賞で、北野武の名声は燦然と復活したのです。

思えば、北野武はバイク事故や暴力事件を起こし、幾度と無く再起不能と罵られました。日本国は今も尚、震災の後遺症が残っている様に思いますし、原発のメルトダウンが本当に終息しているのか、頑迷で暗愚な首相が続き、疑心暗鬼の状態が続いています。当時の北野監督の状況と今の日本は良く似ている様に思うんですね。最後に、傑作「キッズ・リターン」の台詞を僕を含めた全ての日本国の皆様に贈ります。それでは、楽しい週末を!

マーちゃん、俺達、もう終わっちゃったのかなあ。バカヤロー、まだ始まってもいねえよ!
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