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輝ける碧き空の下で

おはようございます。今日は僕、少しばかり元気がありません。心から敬愛する作家の一人であります、北杜夫さんが一昨日お亡くなりになった由、謹んでご冥福をお祈りしたいと思います。本日は追悼の意味を籠めまして、精神科医療の大先達でもある北さんの軌跡を少し綴りたいと思います。

北さんは、本ブログでもご紹介した事のある、最後の大歌人と呼ばれた斎藤茂吉の二男として出生、精神科医として慶應大学病院に勤務し医学博士となり、そして作家としてデビュー、従来の日本の文壇にはなかった、明るく大らかなユーモア溢れる文体でベストセラーを連発しました。旧制高校時代の破天荒で底抜けに可笑しな生活を綴った「どくとるマンボウ青春記」、ナチス・ドイツの暴虐さ非人道さを精神病院を舞台に描いた芥川賞受賞の「夜と霧の隅で」、インド洋からヨーロッパまで、水産庁調査船の船医として乗船、その顛末を記した「どくとるマンボウ航海記」、ご自身の一族の歴史を丹念に追った「楡家の人々」、ネパール登山隊に医師として随行した際の経験を文学に昇華した「白きたおやかな峰」、貧乏なお父さんが大富豪となり珍騒動を繰り返すファンタジーの「父っちゃんは大変人」、「船乗りクプクプの冒険」のような童話、晩年の大仕事となった父茂吉の評伝四部作、大沸次郎賞受賞の「青年茂吉」「壮年茂吉」「茂吉彷徨」「茂吉晩年」、そして僕のフェイヴァリットであります、日系ブラジル移民の苦闘の歴史を丹念な取材で浮き彫りにした日本文学大賞受賞の「輝ける碧き空の下で」、そして多くの随筆や児童文学、SFまで手掛け、様々なジャンルを網羅した日本人らしくないスケールの大きな才人と言えましょう。

ご本人は壮年期に躁鬱病を発症、躁状態の際はご家族は相当大変だった様ですね(苦笑)。何せスケールの大きな方ですから、日本から分離して独立国を作り、「マンボウ・マブゼ共和国」主席を宣言して大々的な記者会見を開き、すぐに「鎖国宣言」をしたり、上半身裸で木刀を持ち馬を乗り回したり、愛する阪神タイガースが優勝しかかった時は、試合中何度も監督に電話し作戦を指示したり、アメリカはNASAに乗り込み、スペースシャトルの船体に自分の名前を書こうとしたり、株の投資で全財産を失ったり…。この様な沢山のトラブルを抱えながら、自らの病状を明るくユーモアたっぷりに自由闊達な文章で綴り、精神病に対する世間のネガティブなイメージを少しでも変えられた事が、自分の出来た一番の貢献だった、と語る北さんの誠実な人柄も、僕の愛する所なんですよね。

改めて、謹んでご冥福をお祈り致します。

今日はもう少し書きたいんですが、それは文庫本の事なんです。或る意味仕方が無い事なのかもしれませんが、先に挙げた北さんの大傑作であります「輝ける碧き空の下で」、新潮文庫から出版されてますが、これ、もう書店の店頭には無いんですよ、随分前に絶版なんです(涙)。アマゾンの古本で買うしかありません。さて、今現在、日本における書籍って、どれぐらい出版されていると思われますか?年によってばらつきはあるんですが、大体7億から9億冊も出版されています。これだけの量になりますと、書店に置かれない本も出てくるんですね。となりますと、一度も読者の目に触れないままで廃棄処分される良書も多くある訳で、単なる資源の無駄です。

さて、先の問題も抱え、読者離れも囁かれる様な悲惨な状況の中、各出版社は必死の健闘を続けていると僕は思います。皆さんがどういうイメージを持たれているか分かりませんが、最も小さいサイズのたかが文庫と言っても、車を作るHONDAやTOYOTA同様、各社夫々のカラーがありまして、とても興味深いものなんですよ(^^)。

老舗中の老舗はやはり、昭和2年創刊の岩波文庫でしょうか。非常に啓蒙的でして、思想・古典・美術・哲学・古典文学・自然科学の良著が多く、夫々を色分けして販売した事が広く知られています。例えば赤色は思想や哲学、黄色は古典文学、という訳ですね。王道を行き最も知られているのはやはり新潮文庫、ここの唯一の欠点は少し売れ行きが下がるとすぐ絶版にする所です。圧倒的なシェアを誇りカヴァーする作家も多く長い伝統があるのですから、名著を安価で入手出来て広範に文藝を広める、という文庫の理念を貫いて欲しいものです。新潮と同じく王道を行くのが、ライバルであります文春文庫、ここの強みは海外ノンフィクション作品が強い所でしょうか。同じく幅広いジャンルを網羅する講談社文庫、ここは日本人作家のノンフィクションの傑作が多いですね。ハヤカワ文庫は謂わずと知れた海外SFとミステリーの第一人者、質量共に他社の追随を許しません。角川文庫は戦前からの老舗なんですが、出版社としては初めてメディアミックスを導入し、映画とタイアップして本を売る手法が瞠目させました。たまにですが、他社では決して出さない様な変わった面白い本を文庫化するのが興味深いですね~。

今、僕の一押しは、講談社学術文庫とちくま文庫なんです。講談社学術文庫は割と歴史の浅い文庫ですが、貴重な歴史の文献と古典文学の現代語訳に特化した姿勢が好ましく思えます。古代エジプトの叡智の象徴であります、アフリカクロトキのシンボルマークがカッコいいんです。ちくま文庫は硬軟両面をカヴァーしていると言いますか、教養・古典・全集・現代文学・サブカルチャーが五本柱でして、この様な個性的な文庫は他に無いと思います。文庫で夫々の作家の全集、というのもかってない試みですし、サブカルチャー系はどうしても無視されがちなジャンルなので、是非頑張って欲しいと願っています。教養や古典のジャンルは月のマーク、サブカルチャーや現代文学が太陽のマークというのも中々お洒落で気に入っています。

北さんの追悼文の積もりが段々話がずれてしまいましたが、大分もかってに較べて大型書店が増えましたから、お暇な際は是非文庫のコーナーを覗かれてみては如何でしょうか(^^)。
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