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ろくろ首

それにしても暑いですな。インドでは50度を超えたってんですから、これではまるで熱燗でござんして、こんな中ではとても暮らせやしません。思わず耳に手をやりそうですけれども、裸にて 起きるが蚊帳の 釣り初め、なんてえ古川柳がございますな。炎天の 地上花あり 百日紅、こうなりますてえと、何だか随分と格調が高くなります。雪の化粧は さらりとやめて 素肌自慢の 夏の富士、これは七七七五、都々逸でございますが、ほんのりと艶があって粋で、よっ、世界遺産、と掛け声の1つでも掛かりそうですな。恐るべき 君等の乳房 夏来る、これでは只の助平爺でございます。まァ、ここら辺の句になりますと、名だたる俳人の物なんですが、あたくしだって負けちゃあいらんない、夏祭り 綿菓子落とし 蟻が来る、どうです、この句。字余りも無く、素直で率直で、詠んだ人の素晴らしい人柄が良く出てますな。…。……。じゃあ仕方が無い、夏祭り 烏賊を焼いたら 蠅が来る、拍手が1つもございませんな。昨今の寄席は、随分客筋が悪くなっちまって、やりにくいね、こりゃどうも。エッ、聴こえちゃいました?何でもありませんや、独り言独り言。こんな事ばかり言ってちゃあ、折角のお旦をしくじっちゃう。じゃあ、これでどうです。十年はひと昔 暑い夏 故郷はふた昔 夏祭り、これは昔の井上陽水の詩でございまして、もうこりゃあ俳句じゃ全くございませんが、漸く拍手を頂けまして、これで安心致しました。ありがとうございます。ありがとうございます。

ええ~、会議会議と 建前ばかり 本音が出るのは 仲間内、なんてえ、今あたくしが造りました即興の都々逸なんですがね、どうも我々日本人は、この会議ってえのが苦手な様でございます。ホントの事を言っちまうと上から睨まれるんじゃねえか、後からこっそりと伝えておけば角が立たねえや、なんてね、これ、大きな間違いですな。第一、その場で言わねえで後からこっそりだなんて、男らしくありませんや。ヤイヤイ、○玉付いてんのか、だなんて、ご婦人方の目の前で大変失礼致しました。万機公論に決すべし、五箇条の御誓文じゃやありませんが、明治の御代から決まってまさあ。正々堂々と己の思う処を述べれば良いんで、それが通らねえ様な会社なら、そりゃあおかしな処でね、とっとと辞めちまえば良いんです。正論が通らねえ様な組織なんざあ、ほっといたって潰れまさあね。良禽は木を択んで棲む、賢い鳥は木を選んで巣を造る、古い諺があるじゃありませんか。そしてね、上役の言ってる事が正しければ、誰からお足を頂いてるんだい、って話ですから、黙って勤めなきゃあなんない、これ、社会の道理ってもんでございます。ただ、宜しくないのは、陰にこもって陰口を叩く輩ですな。こりゃホントに宜しくありません。あたくしの知り合いで、こりゃ本当のお話なんですが、常に不平不満ばかりを言うご仁がおりました。なんだかね、あたくしも人様の事は言えない酷い面ですが、不充足てなあ、顔に出るんですな。そして、その不満が顔に張り付いちゃう。元々は二枚目だったのに、何時の間にやら、何だか作家の遠藤周作が不機嫌になって、二・三発殴られた様なご面相になっちまうんだ、これが。またねえ、そういう輩は妙に噂話が好きでござんして、何でも首を突っ込みたがるんですな。暇なんだか、妄想好きなんだか皆目分かりませんが、荒唐無稽なホラ話を信じ込んじまって、悦に入ってるんですから、困ったもんでございます。そのうち、妙ちきりんな高い壺でも買わされるんじゃねえか、こっちが心配になりますけれど、江戸の昔から、ご婦人方は、この噂話が大好きだった様でございまして…。

「ねえねえ、聞いたかい。あそこの角のお武家さんのお屋敷のお信さん、ま~た、旦那に逃げられたそうだよ。」「ええ、本当かい。お信さんと言えば、器量良しで気立てが良い。立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花、てんだろう。」「そうだよう。お殿様が亡くなられて、乳母と女中の3人暮らしだろう。五月蠅い舅も姑も居ないからねえ。」「ちょいとアンタ、そりゃあアタシへの当てつけかい。」「「何を言うんだか。アンタの処は、皆仲良しで評判じゃないか。」「それはそうと、大きなお屋敷に住んでご内緒だって豊かなもんだろ。何で旦那が逃げちまうかねえ。」「そりゃ、夜が激しくて、旦那が寝かせて貰えないんだよ、きっと。」「アンタもいやらしいねえ。」とまァ、向こう三軒両隣、井戸端会議に花を咲かせておりました。其処に通り掛かりましたのは、達という、名にし負う呑気者でございます。この達、そう悪い男じゃあないんですが、兎に角空気が読めないんですな。今ならば差し詰めKY、とでも申しましょうか。美しい女性が沢山居る場所、新橋に向島に神楽坂に参りましても、芸妓と上手く話せないんですな。初心と申しますか、芸妓にちっとも相手にされないせいか、連れの男性にちょっかいをかけちまうんで。「ねえねえ、コーさん、今度、浅草の屋形船に連れてってくんなまし。2人きりでも構わないのかい。」「ああ、いいぜ。おめかしして来るんだぜ。」と、2人が良いムードの時、この達、止せば良いのにしゃしゃり出るんですな。「オイラも屋形船に連れてってくれよう。」、おまけに無理に三味線を弾かせて下手糞な端唄まで歌ったりして、2人はすっかり興醒め、思わず煙草を吹かす始末でございます。「コーさん、何処に行くんだい、オイラも行くよう。」「うるせえな、はばかりだよッ!」と、お手洗いの前まで付いて来る有り様、人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んじまえ、とまァ、こういう野暮天の達ですから、ちっとも嫁の来てが無かったんですな。

「ええ~、叔父さん。達が参りました。」「なんだい、達かい。まあ上がんなよ。で、今日はどういう風の吹き回しだい。」「いえね、叔父さん、オイラももういい加減、嫁さんが欲しいんだよ。何だか毎日寂しくて…。」「何だい、柄にも無え。しかし魂消たねえ、お前さんがそんな事を言うとはねえ。」「で、どうだい、誰かいねえのかい。」「…。……。」「なんだい、叔父さん、勿体つけねえで、何とかお言いよ。」「ウン、そりゃねえ、居るには居るんだが…。」「オイラ、女なら誰だって良いんだけれども、で、誰だい?」「ウン、お武家さんの処のお信さんなんだがね…。」「へええ、そりゃあ良いや。あそこのお屋敷なら、箸と茶碗だけ持って行けば何とかなりそうだ。早速進めてくんな。」「まあちょいと待ちな。大事な話があってな。お信さんはお前も見た事があるだろう。気立てが良くて器量も良い。でもなァ、旦那が直ぐに逃げちまうんだ。何故だか分かるかい。」「ちっとも分からねえ。」「あのな、気を落ち着けて良く聞くんだぜ。お信さんはな、草木も眠る丑三つ時、夜中になると、首がスーッと長く伸びてなあ、油をペロペロ舐めるんだ。驚いただろう。」「エエッ、そりゃあ妖怪のどくどく首!」「馬鹿、ろくろ首ってんだよ!」「そんなに首が伸びるんじゃあ大変だ、たぐらねえと…。」「蕎麦じゃねえよ。」

家に戻りまして、無い頭で一晩考えた達でございました。嫁が欲しいのは山々なれど、首が伸びて油を舐めるってなあ、流石に参ります。しかしまあ、そこは呑気者の達でございまして、何、夜にしか首は伸びないそうだし、オイラは寝たら目を覚まさねえ、こりゃあいいや、と心を決めました。♪高砂や この裏舟に帆を上げて♪、トントーンと話がまとまりまして、目出度く結ばれた達とお信、仲良く床に入ります。さて、婚礼の酒宴の疲れで直ぐに寝入ってしまった達、スヤスヤと眠っていたのですが、いつもとは枕が違いますから、夜中にふと目覚めたんですな。すると、隣のお信さんの首がスーッと音も無く伸びて参りまして、「アワワワワ、伸びた~ッ!」。ふんどし1つで布団から飛び出た達、叔父さんの家の戸を叩きます。「伸びたよ、叔父さん、伸びた!伸びた!」「うるせえな、こんな夜中に。伸びた、伸びたって、俺はドラえもんじゃねえぞ。」「伸びたんだよ!」「伸びるのを承知で行ったんじゃねえか。今更遅えよ。」「承知だって、とんでもねえ。初日からあんな…。」「馬鹿野郎、相撲じゃあるめえし、初日も千秋楽もあるかい。」「叔父さん、後生だよ、頼むからここに泊めてくれ。」「良いから兎に角お信さんのお屋敷に帰れ。お信さんは、お前の帰りを、今か今かと待ってるに違いねえ。な、気立ても器量も良い子じゃねえか。」「…。……。でもよう、初夜から部屋を飛び出しちまって、お信さんに合わす顔がねえやな…。」「お信さんは、お前の帰りを待ってるさ。」「そうだろうか、怒ってないかねえ。どんな風に待っててくれるのかねえ。」「なァに、首を長~くして待ってるさ。」

代々の柳家小さん師匠十八番のネタ、「ろくろ首」の一席でございました。お暑い日が続きますが、どうか皆様、どうぞお体には充分お気を付けになって、ありがとうございました、ありがとうございました、では又明日の高座でお会いしましょう、ありがとうございました…。
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