>゜))彡 ふぐ鍋 >゜))彡

ええ~、久方振りの高座でございまして、私、少々緊張気味、えっ、そんな面かよとはいきなりのキツいお言葉、どう致しまして、顔は三枚目ですけれど心の内は二枚目でございまして、此れに惚れるご婦人方も大層多いんですよって、んな筈はありませんな。何時も変わらず温かい拍手を頂いて誠にありがとうございます。これこうして頭を深く深く下げまして、皆様方より高い処から恐縮ですが、本日も精一杯高座を務めさせて頂きますm(__)m…。

此の寒い時分になりますと、山々の木々は、朱に紅に染まりまして紅葉の季節、やがて其れが枯れて参りまして、木枯らしが吹いて木の葉が散る、何だかもの悲しい時期ですけれど、女心と秋の空、案外とお日様のご機嫌が変わりまして、時雨に遭ったり致します。川音の時雨、松風の時雨、夜になりますと小夜時雨と申しますが、可憐な美女が涙に暮れる様を、涙の時雨、袖の時雨とも言う様でして、大和言葉とは本当に美しく、結構なもんですな。そしてぼやぼやしている内に、お師匠さんも走り出すという師走が参りまして、冬は2つの年の渡し船、年の初めのためしとて、あっと言う間に新年が来ると。こう年を取りますてえと、何だか時の流れがどんどんどんどん速くなりまして、あれ、つい此の間まで半袖を着ていたのに、もうコートを着てやがる、タイム・マシンにでも乗ってるんじゃねえか、往時渺茫と申しますが、誠に月日の流れるのは瞬間の様ですな。此れ将に邯鄲の夢でありまして、ですから一期一会、此の高座もそうなんですが、他人様との出会いは大切にしなくちゃなんない、まァ、こんな道徳の教科書の様なお話はおつもりにしまして、こう寒くなりますと、やっぱり燗酒と鍋ですな、日本人は。

水炊きに寄せ鍋、ちゃんこにもつ、鮟鱇に湯豆腐、牡蠣にきりたんぽ、枚挙に暇がありませんけれど、冬の王様と言えば、やっぱり河豚でございましょう。特にね、此処大分の河豚は日本一でございまして、全国で唯一、肝が食べられるんですから堪りません。私、つくづく思うんですが、都心なんぞでは、肝も出ないのに、目ん玉が飛び出る様な馬鹿高い金を取りやがって、余程良いお旦が付いてなくちゃあ、食べられるもんじゃありませんや。私の敬愛する大先輩、A社長は本物の通人でございまして、河豚の鍋で産湯を使い~、てなあ冗談ですが、彼が申しますには、大分の「ふぐ八丁」というお店が天下一品だとか。是非皆様、大分にお寄りの際は、是非お立ち寄り下さいませm(__)m。

五十にて 河豚の味を 知る夜かな、此れは一茶。後で聞きゃ 肝の潰れる 刺身なり、ふぐ喰えば 仏も我も なかりけり、乙ですと 言うがふぐには 手を出さず、此れは詠み人知らず。あら何ともなきや きのふは過ぎて ふぐと汁、此れは俳聖芭蕉でございまして、千両の馬にも難がある、ふぐの唯一の欠点、其れは毒なんですな。SM小説の巨匠、団鬼六先生が仰ってました。「最近の芸能人は、大麻や覚醒剤に溺れる者が多い様だが、どうせやるなら河豚をやれ。生死を賭けて旨い物を喰う、此れ程のスリルがあるか。薬より余程刺激があって面白い。」ですって…。

「達さん、いらっしゃいますか。ええ、ご機嫌宜しい様で、幇間の崇でございます。とんだご無沙汰、大変失礼致しました。おっ、こりゃあ良い匂いですな、今気付いたんですがちょうど日も暮れまして腹の虫が鳴いて参りました…。手土産に灘の生一本を持って来たんですが、うう~ん、ばっちりですなあ…。」「お前さんはどうも話が長くていけねえや。仕方が無え、ちょうど良い塩梅になったし、お前さん、鍋を喰ってくかい?」「いえ、大変ありがたいんですが、私、歯が丈夫じゃありませんで…。」「馬鹿だねえ、鍋を食べるんじゃないよ、其の中身だよ!」何だか下手な漫才の様な掛け合いがありまして、白菜に人参に椎茸、豆腐に揚げに春菊がぐつぐつと煮えまして、誠に良い薫りが漂って参ります。「いやあ、野菜に豆腐、誠に結構ですな。で、此の鍋のお宝は何でございましょう?牡丹ですか桜ですか、あっ、山鯨?」「物の分からない奴だねえ、河豚だよ河豚。偶然貰ってな、早速食べてみようか、と支度をしてたらお前さんが来たんだよ、さっ、遠慮しねえで食べてくんな。」「ふぐを喰ったらふぐ死んじゃう…」「えっ、何だい、駄洒落かい?声が小さくて聞こえねえよ。さっ、箸をつけてくんな。」

ところが、幇間の崇も、遊び人の達も、いっぱしの通人、粋人を気取っていながら、実は河豚を食べるのは全くの初めて、おまけに万が一毒に中ったらと思いますと、中々手が出ません。相手が食べるまでは決して口にするものか、必死の睨み合い、まるで大相撲の立合いの様、「達さん、あたしは鰹節が大好物でして、此れさえありゃあ何にもいらないんです。」「そうかい、俺は海苔に眼が無くてな。こいつがいりゃあ酒が進むってもんだ。」、ご両人、折角の河豚鍋を前にして、鰹節と海苔で冷や酒を呑むという、何だか訳が分らない状況となりました。と、縁側から声がしまして、見ると汚い物貰いがいるんですな。「旦那様方、何かお恵みを…」、此処で閃きましたのが達、「よお、ちょうど良い処に来たなァ。良かったら、此の鍋の中身、少し持ってくかい?」毒見をさせようという魂胆でして、喜んだ物貰いは、河豚鍋を貰って帰って行きました。

「よし、崇、お前さん、此れからひとっ走りして、あいつの様子を見て来てくれ。あいつが大丈夫なら、此の鍋を食べるとしよう。」「流石は達さん、名案ですな。」暫く歩きますてえと、先程の物貰い、道端でぐうすか寝ております。ははあ、こりゃきっと満腹になって寝ているに違いない、飛ぶ様に戻りました崇、達にそう報告致しますてえと、「よし、善は急げだ、俺達も食べよう!」我先に箸をつける2人でございまして、まァ其の河豚鍋の大層美味な事、旨い旨いとご両人、〆の雑炊まで、綺麗に平らげてしまいました。「うん、こんなに旨い物とは思わなかったぜ。」「結構なもんですなあ。」ご両人、すっかり満足して横になっていましたら、先程の物貰いがまた参りました。「旦那様、先程の鍋は全てお召し上がりでしょうか…?」「ははあ、余程旨かったんだろう、味をしめたな。残念でした。もう全部食べてしまったよ。遅かったなァ。」「そうですか、お2人のお身体に変わりは無い様ですし、では私も安心して、ゆっくり頂きます…。」

上方落語の名人、二代目桂小南師匠の十八番、「河豚鍋」の一席でございました。明日より師走でございまして、皆様忘年会でご酒を呑まれる機会も多いかと存じますが、大分の河豚は先ず中る事はございません、どうぞ安心して召し上がって下さいまし。
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