薬子の変

どうも僕、体調が今一つ優れませんで、出張の疲れが出たんでしょうか、少々風邪気味ではあります。こりゃ早目に寝た方がと思い、早々に床に就き、出張中に録画していた、WOWOWの海外ドラマを観たんですよ。眠くなれば其のまま寝ちゃえ、という算段でした。ところがね、此れが矢鱈に面白く、僕、既に放送済みの第5話まで、一気に見てしまいました。「エージェント・オブ・シールド シーズン3」でして、「アイアンマン」や「アベンジャーズ」や「X-MEN」等々、ハリウッドを席巻するマーベル社の作品であります。未見の方の為に詳しい話が出来ないのが残念なんですが、もうねえ、哀しい恋愛模様に組織間の対立、政治的な思惑に現実社会の動きまで絡みますし、大河ドラマの風格すら感じます。面白い事は僕が保証しますが、何せ長いですからねえ…。シーズン1から3までで、70話以上ありますし、1回50分の放送ですから、え~とえ~と、70×50=3500分、ゲゲッ、約58時間ですか…。しかも、余りの人気で、シーズン4も既に決まってますもんね。こんな長尺、とてもお勧め出来ませんね、トホホ。

さて、此のTVシリーズ、脚本が優れている事は間違い無く、映画本編ともリンクし、細かいギャグもあり、大変良く出来ています。そしてね、当然ながら上手と思いますのが、女優さん達は勿論美人揃いなんですが、皆さんタイプが全く違うんですよ。男性視聴者は誰かをお好みだろう、という事なんですね。ぽっちゃりしたハーフの可愛い子ちゃん。クールなアジアン・ビューティ、スタイリッシュなお姉様。ほっそりした清楚なお嬢さん系。金髪でブルー・アイズで大柄なグラマー。プロポーション抜群な正統派美人でベリー・ショート。将に百花繚乱、何れ菖蒲か杜若でして、きっと殿方には目の保養じゃないかしらん。日本のドラマですと、女優の皆さん、美人とは思うんですが、スレンダーな方ばかりで、此処まで様々なタイプは揃わない気がします。

でね、僕、其処で思い出しました。かって旅をしたインドやネパール、其処には仏教の観音像や、ヒンズー教の女神像を多く目にしました。皆さん揃って大変なグラマーでして、古代インドの神話には、10人の女神が登場しますが、これまた豊満な美人ばっかりです。世界各地の地母神を見ましても、北欧やメソポタミア、ギリシャやケルトだって、皆さんグラマーですもんね。此れ、其の土地の豊饒さや、農作物の豊かな実りを願っての事でしょう。グラマーな容姿の地母神は、紀元前の新石器時代から崇め奉られていた、そう言われています。よく考えますと、芸術の面でも同じなんですよね~。豊満な裸婦を好んで描くと謂えば、ルノワールが代表でしょうが、ルーベンスがそう、ファレロもジェロームも同様ですし、ピカソの廻りにはグラマーな女性達しか居なかったとか。本邦ならば、梅原龍三郎も棟方志功がそうでして、僕のオフィスに絵がありますけれど、ふっくらした女性がモチーフですもんね。恐らく、彼らにとってのミューズ、芸術の女神様だったのでしょう。映画でもそうですよね。古くはマリリン・モンローにキム・ノバク。ソフィア・ローレンにアン・マーグレット。最近ならば、ビヨンセにスカーレット・ヨハンソン。モニカ・ベルッチにシルバーナ・マンガーノ、ソフィア・ローレンにジーナ・ロロブリジーダにクラウディア・カルディナーレ。皆さんグラマーでして、世界的な女優さん達ですが、最後にご紹介した5人は皆イタリア人です。地中海の気候が良いのか、はたまたオリーブ・オイルやパスタを食べると、そういう体型になるんでしょうか!?そうそう、オペラの世界も同様でして、ベッリーニもワーグナーもプッチーニも、夫々のミューズが居て、情熱的な愛に溢れる歌劇が生まれた訳でありましょう。文学においては、情痴小説というジャンルがあるぐらいで、舟橋聖一も谷崎も、荷風も鴎外も、女性が大好きですもんね♡

閑話休題、上記の女性の皆さんは、芸術家にとってのファム・ファタール、男性にとっての運命の人であり、魔性の女だったと思われます。でね、僕、タイムマシンがあれば、是非其のお顔を見たい女性が居るんですよ。時代は遡りまして、今から1300年前の平安期、天皇にお仕えする女官だった、藤原薬子、其の人であります。そんな人知らないよ、と思われるでしょうが、暫しお付き合い下さい。日本史上最大の悪女かもしれず、きっと興味が湧く筈です。

さてさて、此の薬子さん、5人の子宝に恵まれた、元々は平凡な奥様でありました。ご主人は中納言でして、かなりの高位、其の縁もあったのでしょう、長女が女官として天皇にお仕えする事になったんですね。其の伝手を利用したのかされたのか、宮中に出入りする際に薬子さん、皇太子を自分の魅力の虜にしちゃうんですよ。正確な記録はありませんが、5人の子を持つ40~50代?ぐらいの筈なのに、10歳は年下の皇太子はメロメロであります。其の関係を察知し、告発しようとした政府高官が居ました。最澄や空海と共に遣唐使を務め、現在ならば、各大臣を歴任した、総理クラスの大物政治家でしたが、彼も又、薬子さんの魅力にメロメロ、第2の愛人となっちゃうんですね。やがて皇太子は即位し、平城天皇となり、薬子さんとの仲はホットなままでありました。因みに、当時の天皇は殆ど独裁制であります。おまけに、実力のある総理までもが薬子さんの言いなりです。薬子さんのご主人は憐れにも、彼の菅原道真と同様、太宰師、という職に就かされ、九州へと左遷されてしまいました…。そして、薬子さんのお兄さん、何をやらかすか分からない乱暴者だったそうですが、彼を大臣へと大抜擢したんですね。天皇と総理を愛人とし、実の兄には大臣をさせ、自分は決して表に出ず、ただ、女官達を束ねる長の座に就き、様々な情報を収集していた様でした。5人の子持ちながら、旦那は左遷させ、年下の最高権力者2人を手玉に取り、此の国を陰から動かすだなんて、ねっ、まるで昼間のドロドロのドラマの様な、凄い展開でしょ!?此の薬子さん、当然頭も切れたでしょう。5人の子がいながら、10歳年下の男性2人を夢中にさせるとは、相当な美人であり、コケットリーな魅力もあり、スタイルも抜群だったんじゃないかしら。ねっ、1度見てみたいですよね!?

此の世の春を謳歌していた薬子さんでしたが、平城天皇が病を得てしまい突然退位、弟ながら皇太子である嵯峨天皇に地位を譲り、上皇となるんですね。此れは薬子さんの予想外だったでしょうが、必死に看病致しますとアラ不思議、平城天皇のご病気は、嘘の様に治り、大層元気になってしまいました。此処は想像なんですが、恐らく、ピロー・トークで薬子さんが囁いたと思うんですよ。「私の看病で、貴方の病気が治ったわ。私はこんなに貴方を愛しているし、もう1度天皇やって~、お願い♡」、上皇も其の気になりまして、旧臣や兵を盛んに呼び集め、あわや内戦状態、一触即発の状態となりました。ところが、此れを予測していたのでしょう、嵯峨天皇の対応が機敏でして、上皇が挙兵する前に、各地を押さえ、大軍で囲んでしまいました。其の結果、上皇は頭を丸めて仏門へ入りました。謀反を起こした家臣達は皆、左遷か流罪。薬子さんのお兄さんは死刑。薬子さんは毒を仰いで亡くなる、という結果となるんですね。可愛そうなのは上皇の実子である高岳親王でして、流石に日本に居られなくなったんでしょう、僧侶となり中国に渡ります。そして天竺、今のインドで修業すると旅に出るんですが、道中、虎に襲われて亡くなった由でした…。何だか、薬子さんと関係のあった人は皆、天網恢恢疎にして漏らさず、かなり悲惨な終わり方であります。美しい薔薇には棘がある、そう申しますけれど、幾ら美人とは言え、こんな悪女に捕まったら身の破滅ですよね、くわばらくわばら…。因みに、長い長い日本の歴史において、乱や変の名称に女性の名があるのは、薬子さんだけであります。まァ、薬子さんも此処までやりたい放題したんですから、以って瞑すべし、悔いは無いでしょう。薬子さんの波乱万丈、疾風怒濤の半生を書いたら、何だかお腹が減りました。ちょっと早いけれど、お昼を食べに行って来ま~す。
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