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芝浜

…テン、テテン、テ、テテテン、テン、テテン…

ええ~、お寒い中、連日のお運びで、誠にありがとうございます、皆様より一段高い所から、これこうして低く低く頭を下げまして、厚く御礼申し上げます…、もう少し拍手を頂けるともっと頭が下がります…、ええ、実はあたくし、昨日が誕生日でして、勤労感謝の日に生まれた割りには、ちっとも働かないねお前さん、気付けば寝てばっかりいるよ、三年寝太郎だねえ、とは良く言われますが、月日は百代の過客にして行きかう人も又旅人なり、齢四十を超えますと、祝ってくれる奇特なご仁なんておりませんから、ささやかに自祝の杯を、なんて考えてたんですが、滅多に無いたまの祝日にねえ、誰それが亡くなったなんてね、悲しい話ばっかり入ってきやがるんで、ここ数日黒い衣服に身を包んで手を合わす、ってえと、禍福は糾える縄の如し、人間万事塞翁が馬、吉凶禍福相半ばす、なんて昔の人は含蓄のある事を言ったもんでござんしてね、もっとも人間万事塞翁が丙午、気の強え女に手ぇ出したら食い殺されちゃうよ、なんて洒落で言った奴もいるぐらいで、おっと話がそれましたが、落語界の第一人者、天に宝を積みし人、芸界の麒麟児、立川談志家元がお亡くなりになりまして、使い古された表現でカビが生えてるもんですから、あたくしどもは滅多に言いませんが、将に巨星堕つ、でございました…

家元は、才溢れる人でしたが、努力を決して厭わないご仁でして、「落語は人間の業の肯定である」という認識を掲げて、「現代落語論」という噺をロジカルにアカデミックに捉えた名著を出されたんですな、それからも考えに考え抜いた挙句、晩年は「落語とはイリュージョンである」という新たな地平線、前人未到の境地に達した訳でして、あたくしなんざ足元にも及びませんが、破天荒な生き方でござんした…、落語家の殻を破り、コントに漫談にスタンダップ・コメディを披露し、真打昇進、今も尚続く長寿番組「笑点」を発案し初代司会者、参議院議員を務め、立川流を創設、という波乱万丈の一生、何の因果か喉頭癌を発病し、落語家の命である声を奪われるんですから、この世には神も仏もございませんや…あたくし、直接の面識は勿論ありませんが、家元の言葉を座右の銘として、拳拳服膺、肝に銘じて、毎日薬にして飲んじゃってるぐらいなんですから、折角の高座の場をお借りして、ちょいとご紹介致しやしょう…

芸人という消費文化の担い手である以上、真っ当に働くな

真の天才は手塚治虫とダ・ヴィンチだけだ

状況判断の出来ない奴、これ即ち馬鹿と言う

市中引き回し、仇打ちを復活させねえと犯罪は無くならない

そして、本業の落語なんですが、あのリズム、あの間、あのテンポ、ジャズの即興演奏の趣なんで、古典を現代にアレンジしたんですな、噺家というものは画家と同じ、これあたくしの自論でござんして、その時代その成長によってどんどん芸風や画風が変わるんですな、ゴーギャンなんて、当初は大人しい陰鬱な風景画を描いていた時期もありましたが、南太平洋の楽園、タヒチ島に移住してからは、原色を多く駆使し、少女達を描くんですから、家元だって、昭和30年代の若手の元気盛りの頃と、平成になって円熟した時期ではまるで、別人の様でございます…、随分長い枕になりましたが、噺を一席…。

え~、時は江戸時代、場所は今ならば浜松町の辺り、名を勝と言う非常に腕の良い魚屋がおりまして、近所の長屋の連中は皆、勝っつぁんの仕入れた魚を楽しみにしてる按配なんですが、この勝、千両の馬にも難がある、と申しましょうか、とにかく酒好きなんですな、寒い日の朝なんざあ、ついつい寝坊して仕事もしないで酒ばかり飲んでるんで…、それが余りに続くもんですから、女房が心配して叩き起こしまして、お前さんお前さん、いい加減におしよ、もうお天道様が上がるところだよ、仕事に行っといで、と叱られた勝っつあん、渋々寝ぼけ眼で芝の魚市場、今ならば東京タワーが建ってる辺りに行くんですな、ところがあんまり早すぎたもんですから、市場には人っ子一人いやしない、ってんで海辺で顔を洗って煙管を吹かしてますと、波打ち際にキラキラッと光るもんが見える、不思議に思って拾ってみますてえと、大振りの財布の中には、目を剥く程の黄金色の小判がぎっしりと詰まっておりまして、愕いた勝っつあん、仕事どころじゃございません、朝も早くから長屋の仲間を呼び寄せまして、鯛だ平目だ伊勢海老持って来い、酒は灘の生一本、樽酒だ、と将に大盤振る舞い、大酒を飲んで寝ちゃったんですな、カラスカァと鳴いて夜が明けますと、女房が烈火の如く怒ってるんで、お前さん、酒代と魚代はどうすんだい、とお冠でございまして、勝っつあんは拾った財布の件を必死で訴えるんですが、女房は知らないよお前さん、の一点張り、家中を探すんですが何処にも無いんですな、すっかりしょげた勝っつあん、これは連日の酒が過ぎて悪い夢を見たんだ、こんな事じゃあいけねえ、俺は酒を断つと宣言致しまして、さあそれからは人が変わった様に真剣に働き始めまして、三年の月日が過ぎる間に、身代も随分増えまして、小さいながらも店を構える事と相成ります、そして深々と雪が降り積もります大晦日、女房が勝っつあんにあの時の財布を見せるんですな、「お前さん、財布は拾っていたんだよ、その中には小判が確かに入ってた、でもねお前さん、人の物を盗んだら死罪だよ、そしてあんたに酒を止めてもらって仕事をして欲しかったんだよ…、それであたしゃ、長屋の大家さんと相談してね、町奉行に届けたんだよ、拾い物ですってね…、あれから随分月日が過ぎたけれど、拾い主が現れないってんでね、今日、このお金が下げ渡されたんだよ…、長年嘘を付いたあたしを許しとくれ…」言葉も出ない勝っつあんでしたが、いや、おめえは何も悪くねえ、俺は道を踏み外しお縄になる処だったよ、真人間になれたのはお前のお陰だ、語るも涙聞くも涙、女房が熱く温めた酒を勝っつあんに勧めるんですな、「お前さん、三年の間、あんなに好きだった酒を断って暑い日も寒い日もよく頑張ってくれたよ、是非是非飲んどくれ」、しばしの沈黙、遠くからの除夜の鐘が響く中、やがておずおずと杯を手に取った勝っつあん、よそう、また夢になるといけねえ。

亨年七十五、立川流五代目家元、立川談志十八番の演目、「芝浜」でございました。今日の日本列島は寒波が襲来、北日本や北陸は大雪の由、皆様、足元にお気を付けてお帰り下さって、熱い酒で冷えたお体を温め下さい、どうか夢ではありません様に、おあとが宜しいようで…

…テン、テテテン、テ、テテン、テン、テン…
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No title

素晴らしい「芝浜」。
流れるようなテンポ良い展開を言葉に出して読みました。
涙が出ました。

No title

味写さん、お久しぶりです。コメントありがとうございます(^^)。

古典落語の人情話は涙が出るものが多いですよ。是非お聞きになられて下さい。

初めてコメントするものです。色々ネットを見てたら、このブログにたどり着きまして、毎日楽しみにしてます。私は落語に疎いんですが、面白い落語家の人がいたらぜひ教えてください。生まれて初めて興味を持ちました。
これからもブログ頑張って下さいね。ところでどなたが書いてるんですか?

No title

hikaru.さん、初のコメントありがとうございます(^^)。

立川談志家元も素晴らしいですが、全く初めて聴かれるのであれば、もう亡くなりましたが志ん朝に八代目の文楽、上方落語なら米朝、枝雀辺りでしょうか。

筆者は病院スタッフです(^^)。
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